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□暴飲してしまえ
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灰崎君。

なまえを呼んでみるけど、返事はない。
どうやらものすごく機嫌が悪いようだ。
これ以上なまえを呼んだらきっと殴られるか蹴られるか、もしくはキレられるので賢い私はお口をとじる。
体育館でこんなにも機嫌悪そうにしている灰崎君を見たことがなかったわたしはマネージャーの仕事もほどほどにして隣に座った。
あとの仕事は申し訳ないけど、他の子たちでやってもらうことにしよう。
口を閉じたまま、1軍の練習風景を眺めた。
相変らず変なバスケをしてる。
最近はいった黄瀬君は生き生きと1on1をしていて、見てるこっちが楽しくなるプレイスタイルだ。
それに比べてわたしのお隣さんの喉からせり上がってくる唸り声は、獰猛すぎて耳に悪い。
最近部活に前より来なくなったせいか、成長期の黄瀬君といい勝負になっているから余計に彼の自尊心を刺激されてて、
正直わたしは今とても困ってる。
さつきちゃんからの労りの視線が胸に刺さってどうしようもない。

おもむろに灰崎君は体の汗をぬぐっていたタオルをわたしに寄越してきた。
どうやら洗っておけということらしい。
了解しました。
これ位で機嫌が少しでも治るなら新品並みにふかふかさせるよ、仕方がないな、もう。

「ニヤけた面してんじゃねぇよ、クソが」

普通なら怖がる灰崎君の暴言が、あんまり怖くなかった。
なにこれ不思議。

「クソとかお下品だなぁ灰崎君は」
「あ゛ぁ゛ん?」
「キャー怖い(棒読み)」

嬉しくなって灰崎君の使用済みタオルに顔を埋めた。
もちろん頭の上にげんこつが落ちてくる。
痛い。
でも、ふふふ、なんか楽しい。
心の底からの嫌悪をのっけた「気持ち悪ぃ」の一言を受け止めて、顔を上げた。
先程より随分よい顔をしてる灰崎君。
でもやっぱり機嫌よくはない。

「ンだよ」
「いやいや、今日もかっこいいなぁと思いまして」
「思ってもねーことを」
「いやいやホントだよ世界一かっこいい」
「きめぇ」
「言わせといてそれはどうなのかな」

近くで見守ってたさつきちゃんが安心してる。
可愛い。
ちょっとだけそっちに気をとられていると不意打ちを食らった。

「勝手に言ってろ」

頭を撫でられた。
ぽんっと一回だけで少しだけだったけど。
撫でられた。
ごつごつした灰崎君の手が私の頭に。
逃げるように1on1をしにいった後姿は、黄瀬君と変わらないバスケ少年だった。

「不良少年が、愛おしすぎるんだけどどうしようさつきちゃん」
「変なの」

全くもってその通りだ。






2015.03.09

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