INFINITY ABILITY

□プロローグ
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いつも通りの朝、いつも通りの学校。代わり映えのしない毎日。
高校になっても学校が変わらない私たちは、平凡な二年弱を過ごしていた。あの奇怪な事件のことが嘘のように、高校生活は普通だった。
とても寒いあの日の7時50分がくるまでは。


―望月梨絵の場合―

電車に乗り、ふうと息をつく。やはり暖房はいいものだ。音楽に耳を傾けつつ、終わらなかった課題をする。

もうすぐ7時50分。最後の乗り換えだ。立ち上がり荷物を持ち直す。途端聞こえてきたのは悲鳴。男がキラッと光るものを握って暴れている。そのままこちらに走ってきた。
鋭い痛み。
体勢を崩し、また椅子に座り込む。
あーあ、まだ課題、終わってないのに。
私のお腹から突き出したナイフの柄が、赤く染まっていった。


―黒雷波瑠の場合―

駅のホームで、音楽を聴きながら電車を待つ。電車が遅れているらしく、もう少し待たないと来ないらしい。全く、迷惑なことだ。

あれ?電車来たじゃん。遅れてなんかなかったのかな。なんかスピード早い気がするけど、乗れるでしょ。ゆっくりホームの端の方に移動する。
背中に軽い衝撃。
体勢を崩し、私は線路へと倒れていった。
ちらっと見えた時計は7時50分を指していて、何だよ、やっぱ電車遅れてねえじゃん。
私の体は加速した電車にぶち当たった。


―蒼龍涼香の場合―

相変わらずうるさい教室の中。ひとり本を読んでいた。相変わらず他の四人は来てなくて、今日莉央と比奈は8時から朝練だけど大丈夫かな、と心配になる。

不意に教室が静かになる。あれ?おかしいな。時計を見る。あと数秒で7時50分。やはり変だ。不思議に思って本を伏せ、立ち上がった。
ぐにゃりと空間が曲がったような感覚。
体が傾いで行く。
それにしても、なんでいないのかな、みんな。
目の前が真っ暗になり、私の意識は深い闇の中へ落ちていった。


―佐藤莉央と鏡音比奈の場合―

乗った電車は8時からの朝練にはギリギリで、足早に通い慣れた通学路を歩く。朝練に遅れたら彼女にどれだけどやされるか。そう思うと会話なんてものはなくなって、ただただ早く、学校へたどり着こうとしていた。

後10分ちょっとで朝練が始まってしまう。半ば駆け足になって二人同時に角を曲がる。
クラクション。
びっくりした比奈が転ぶ。
あれ?おかしいな、この道、反対の一方通行じゃない?それにしても、これじゃあどやされちゃうな。
逆走してきた車のバンパーに、弾き飛ばされたのは二人同時の7時50分。


とある寒い日の午前7時50分、私たちは一斉に死んだ。













筈だった。

ーインフィニティ・アビリティー

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