廻る曇天

□廻る曇天
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『大丈夫だ。お前たちなら、兄ちゃんがいなくなってもちゃーんとこの日ノ本と、町のみんなを護っていけるさ。なんたって、この天火様の大切な弟たちだからな』


『ふざけんな…っ!何が大丈夫なもんか……。俺たち…、まだアンタに教えてもらわなきゃいけないことも、やりたいことも山程あるんだよ…!』


『天にぃ…っ!嫌だよ……、行かないでよぉ!』


二人の叫びに、背を向けて手を振って行ってしまう。

全部一人で抱え込んで。いくら手を伸ばしても届かない。
こんな時でも、例え顔が見えなくても、全部背負ったうえで笑っているのが分かる。

辛そうに。弱さは見せまいと。


『…っ、…なんで…なんでだよぉ……なんでアンタなんだ……なんでアンタがオロチの器なんだ…』


夕暮れ、皆の叫びは届くことなく、一人の誇り高き男がこの世界から命の華を散らす。


***


「……っ、…!?」


自分の叫び声で目が覚める。


なんだ今の夢は。

夢だというにはあまりにリアルで。全身の震えが止まらない。

頬に手を当てると泣いているのが分かる。


「…なんだよ…、これ…」


とても言葉で言い表せない恐怖感に襲われて、涙を拭ってリビングに駆け下りる。


「おおー、起きたか空丸!」


「だいぶうなされていたようだけど、大丈夫?」


「……」


安堵のため息が溢れる。大丈夫だ、いつもどおりの風景だ。


「ああ…、ちょっと夢見が悪くて」


「なんだぁ?兄ちゃんが慰めてやろうか?」


「…いらねぇよ!」


兄である天火が、からかうように抱きしめてくる。

抵抗しながらも、天火の首元になにも無いことを確認して、胸をなでおろす。


「ああぁっ!空兄だけ天兄に抱きしめてもらっててずるいッスよ〜」


そこへ珍しく自力で起きてきた末っ子の宙太郎が、二人に飛びつくように抱きつく。


「あっ」


「へ…っ!?」


バランスを崩したように、三人まとめて床に将棋倒しで倒れる。


「…相変わらず賑やかだね?おはよう、宙太郎」


苦笑いとともに、それぞれに手を貸して起き上がらせてくれたのは、雲家の居候である白子さんだ。


「いたた…」


「大丈夫?空丸」


一番下に下敷きになった空丸を、心配そうに見つめる。


「ええぇ、白子…俺の心配はしてくれないのか〜?」


ふざけた口調で天火がいじける。


「心配してるよ、ちゃんと」


クスクス笑いながら、いたずらっぽい笑みを返す。


「それより、早くごはん食べないと二人共、遅刻するよ?」


ほら、と白子が時計に目を向ける。それにつられて、空丸と宙太郎二人で時計に目をやると、家を出る十分前。


いつもどおり起きたと思っていたのに、あの夢の余韻のせいでだいぶ時間が経ってしまっていたらしい。宙太郎と二人で朝ごはんを掻き込んで、慌ただしくそれぞれ学校へ向かう。


***



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