自分で言うのも何だけど、俺って顔のパーツが整っていると思うんだよね
背も高いし、バスケが出来るし、お金の羽振りも良いし、まぁ勉強は置いといて、イケてる男な訳
今まで好きになったモノや興味があるモノは、自分から声を掛けずとも自然と自分に寄ってくる
だからかなぁ…こんなに苦労したのは初めてだ



仙道君と越野君の365日D



入学当初は俺の座席は廊下から四列目の前から二番目だったけど、背が異常に高いって事で、必然的に一番後ろに変わった
そりゃ190cm近くの身長な上、俺のトレードマークのツンツン頭の所為もあって真後ろに座っている生徒は黒板がまるで見えなかったみたい
その上、何故か俺とピンクのうさぎちゃん改め、越野と同じバスケ部って事で一緒くたにされたみたいで、俺の前に越野の席が有る
その所為もあって、俺はじっくりと越野を観察する事が出来た
先ずは敵を知れって…いやいや敵じゃないけど、興味を持ったモノを知りたいって思う探究心って大切だと思うんだよね
名前は越野宏明で当然男で、勝気なアーモンド形の目に髪は黒髪の中分けサラサラ(と思われる…だって触ってないから実際は分からない)していて、身長は俺より10cm以上は低いと思う
授業態度は真面目でしっかりノートを取っているし、当然居眠りなんかしていない
良く笑うし、良く怒るし(主に俺になんだけど)、良く食べる
そう、良く食べるんだ
今だって次の授業までの短い休憩時間で、菓子パンを噛り付いている模様(後姿だから詳しくは不明)、なのに体重は体格に比べたら軽い方じゃないのかと
なんか真剣に観察していたら、疲れてきてしまった
物凄い睡魔が…
「おい仙道!起きろ!」
これから机に突っ伏して安眠しおうかと思っていた矢先、俺の両耳を掴み左右に引っ張られた
重たい瞼を持ち上げると、目の前に両耳を引っ張った張本人である越野が、眉間に皺を寄せながら俺を睨み付けていた
「テメェ何寝ているんだよ、授業始まるぞ」
越野の発した声は、甘く俺の耳に響いた
甘い?
そうだ、メロンパンの甘い香り
「越野、メロンパン旨かった?」
「は!?俺が食っていたのは卵サンド!」
本当だ、唇の端に黄色い卵サンドの食べ残しがくっ付いている
越野の唇が甘い訳では無い
?…唇って甘いんだっけ?
今まで付き合ってきた彼女達って、唇って甘かったかな?
だって物理的にそうだろ
甘いモノを食べれば甘い声になるし、甘い唇になる
じゃあ、越野の唇は何で甘い香りがするのだろうか?
「ほら、次は数Tだせ、教科書くらい出しとけ」
その言葉を残して、越野は体の向きを前へ直してしまった
ハッキリ言って授業なんて頭に入ってこなかった
寧ろ、俺が真面目に起きている事に先生は大満足しているようで、机の上に出している教科書が1ページも開かれていなかったとしても

越野のサラサラの髪がノートに書き込む事によって、サラリと前へ動く姿とか、少し難しい問題にぶち当たった時、右手のシャーペンをクルリと回転させたり、集中が切れると足を椅子の下でクロスさせ頭を少し左斜め上に傾けたり、母親がしっかりとアイロン掛けしているワイシャツから透けるインナーの色が気になった仕方がなかったり、襟首から覗く項が視界に入る度に、凄く、気持ちが落ち着かなくなるんだ

この気持ちは何だろう

いや、この気持ちに名前はもう付いている

唇の端に付いた卵サンドは、どんな味がするんだろう


想像しただけで、俺は上唇を舌でなぞった





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