スレイヤーズ

□聖誕祭
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ー雪山に囲まれた地方都市。
街はとても賑わっていた。

今日は年に一度の大きなお祭りだと、宿屋のおばちゃんから聞いていた。
あたしことリナ=インバースは、宿の一室から街の様子を眺めつつ、お酒に口をつける。

「うーん、、、これ結構きっついかも、、、」

この街の名物料理につられて、立ち寄ってみたものの料理については申し分なかった。
お祭り見学は腹ごしらえの後行こうかとおもっていたが、サービスで出された名物のお酒のアルコール度数が半端ない。

(もー少し、お酒抜けてから行こうかなぁ...)

仲間たちと別れてどれ程経つだろうか。。。

自称保護者にお転婆姫、毒舌魔法剣士それに、、、

「胡散臭い生ゴミ神官」

思わず声に出してしまい小さく笑う。
『もうお会いする事がないよう祈ります』
記憶に残るあいつは、いつもの笑みでそういった。

その言葉に、胸を痛めている自分がいた。
同時に、蕀の道だとも悟っていた。

人間と魔族。

けっして相容れない生き物。

「・・らしくないわね。今さら昔のことを」
ぼーっとしながら人混みを見つめていると、見覚えのある姿をみつけた

短く整った黒髪に神官服

その姿に、思わず立ち上がった。

「ゼロス!?」

慌てて窓をあけ、冷気が肌に触れるのも気にせず懐かしい人影を探した。
だが、祭りの最中であり人の往来が激しい。

普段ならともかく、酒がきいてるのもありあたしは探すのを諦めた。

ため息をつきながら、静かに窓を閉める。

「見間違え、、、よね。ばかみたい」
「リナさんがお酒とは珍しいですね」

テーブルの向かいに、あいつは座っていた。

「僕は以前一人旅はお薦めしない。と、言ったと思ったんですがねぇ」

少々困ったようにゼロスは笑う。
別れたあの日の笑顔で

「ゼロス!」

思わず、あたしはゼロスに抱きついた。
涙が溢れ頬を伝い、鼓動も体温すらない彼の胸に収まる。
さすがのゼロスも、これには動揺の気配が表れた

「あの、リナさんこれは、、、」
「ゼロス!あたしを置いていかないで」

魔族のゼロスは感情が読める。
あたしの感情を悟るのはぞうさもないことだ

「場所を変えます」

静かにそう言い、あたしを抱きしめ空間を渡った。


「ここは?」
「この街の象徴たる樹の頂上です」

しんしんと降る雪が、ほてった身体に丁度よかった。

「少しは落ち着きましたか?」

言われてみたら、少しお酒が抜けた感じがした。

「・・・うん、なんかごめん。酔ってた、、みたい。。。」

抱きしめていた手を緩めるあたしを、ゼロスは首をふった。

「マントもないと風邪をひきます。今熱を作りますからこのままくっついていてください」

雪がふるこの時期、ゼロスの方が正論である。
言われた通り、そのままゼロスにしがみついた。ほどよい暖かさに包まれる

「・・・リナさんはお酒は飲まない方がいいですね」
「・・・無様な人間って思ってるんでしょ。あたしだってここまで酔うなんて、、」

言いかけてあたしは口篭る。
それを見てわざとらしく手を叩くゼロス

「リナさんご存じですか?今日この樹に願い事をかければ、叶うって噂です。よろしければ、願ってみたらいかがですか?」
「あんた、魔族の癖に願掛けなんてするの?」

思わず笑うあたしに、ゼロスは安堵した笑みを浮かべた。

「まぁ、ぼくも願いのひとつやふたつはありますよ。仕事多くて」

器用にいつもの笑顔で涙を流す。相変わらず中間管理職は大変そうだ。

「リナさんが僕の相棒だったら、どんなに助かったことか。今でも思いますよ」
「それ、新しいスカウト?あたしの答えは変わらないけどね」

だいぶ酔いは醒めてきたが、本心を隠すまでは無理。

「第一、人間やめるのが一番いやなんだから」

変わらないあたしの回答に、変わらない笑顔のあいつ

やっぱりふられてしまいましたね~と、本心を一切見せない。

だが、ゼロスは気づいているだろう。
あたしの嘘を。

違う。嘘ではない。
人として生きたい。これはかわらない。

でも、、、、

気がつけば、ゼロスにしがみついてる手を緩める。

「ゼロス、今日は仕事?」
「おや、突然どうしました?」
あたしの視線にも動じず、お面のような笑顔で答える。

「だって願かけしても、叶う前にあんたに殺されたら意味ないでしょうが」
「あぁ、なるほど。うーん、、、それに関しては今は手を出さないとお約束しましょう」

少し考えてゼロスは、あたしの頭をなでた。

「あたしは子供かー!!」

あたしが手にしたスリッパは、ゼロスを天まで飛ばした。

今さらだが、泣き顔を見られて恥ずかしくなるあたりが情けない。。

半ばヤケクソ気味にゼロスをふっとばして、あたしは清々しい気持ちでいた。

雪がふろうが、おかまいなしにあたしは願った。

ゼロスと居たいけど、信念もまげたくないから。


どこからか、そんなリナをゼロスは見ていた。

「やっぱり、リナさんはこうでなければ」

先程の感情は美味だったが、なぜか泣き顔のリナをみてがとても息苦しく感じた。

だからこそ、いつもの笑顔がみたかった。



わずかに芽生えた変化にゼロスは気づくはずもなかった。
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