Fate/Zero -EXTRA-

□EXTRA 05
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帰宅した時刻は、とうに校則で1人歩きが禁止されている時間であった。
いくら神父様たちが協力を要請し、裏で揉み消してくれると言えど、一個人としては心配される身。
帰宅早々叱られた。

『すみませんでした……』

「まあ、無事なら良かった。今日はゆっくり休みなさい。綺礼、後は頼んだ」

「解りました。白野、お前は準備をしろ。食事はできている」

ちらり、と増えた使い魔を見た義兄を見て、何となく察したのか、食事の必要性を否定した。
別に食べなくても支障が無いのは事実だが、私としては一緒に食べたい。
そんな感情が表に出ていたのか、2人は困ったように眉尻を下げた。

「我らは人間とは違って、五感はより優れておる。だから匂いで何の料理か、特定できる」

「ここからでも充分に解るのだが……。マスター、これは君の好物だ。遠慮なく食らい尽くしてくれ」

……何となくだが感付いた。2人は困ったフリをして拒絶している。
あっちであれを食べようとした時も、同じように嫌がったのを私が忘れていると思ったら大間違いだ。

『義兄さん、今日のメニューって?』

「私の好物だが」

つまり激辛麻婆豆腐である。別に私の好物ではないが、決して不味いとは思わない。
……常人の舌に合うものではないことくらい解っているが。

『2人は休んでていいよ。ご飯済ませてくる』

一先ず食事だ、と切り替えた私は、手洗い場に向かった。


手吹きで水滴を拭い、食卓につくと、既に準備は整っていた。鼻にぶつかってくるのは、殺人的な刺激臭。
それを普通に嗅いでいるあたり、自分も末期だ。

『いただきます』

口に含めばその刺激は相変わらず。しかし味は咀嚼してみれば美味しいものなのだ。
まあ、そもそも口にする以前のブツなのは間違いない。

「お前もよく平然と食べていられるものだ」

『義兄さんだって、平気で食べているじゃないですか』

水を用意した義兄は、そのまま私の反対側の席に座った。別段私は気にすることもなく、そのまま食べすすめる。

「私は、周囲がまともにそれを食べる様子を一度たりとも見たことがないのでな。お前には心底驚かされる」

『味覚比べても、何にもなりませんよ。唐辛子系の辛さなら、日本のお隣の国の人とか、大概平気で食べます』

だから行ってみてはどうですか?と言ってみた。別に追い出したいとかではない。
辛いもの好きに、日本の味は向かないと思っただけだ。山葵や辛子の辛さなんて、絶対比べるに値しない。

「勘違いしているようだが、別に私は、辛いものが好きなわけではない。味覚が人とずれているだけだ」

『……だから、味覚比べても無意味ですって』

コップを手にし、水を一気に煽る。辛いものを食べて火照った体には丁度いい。

「……魔力に支障は無いか」

急に短く聞かれ、少し間ができた。意味を理解して反応するまでにかかったラグは、およそ5秒。

『大有りです。こうも目眩を起こしていたら、いつ昏倒してもおかしくありません。
時臣さんに迷惑が掛からないだけ、まだ良い方です』

「……そうか」

はっきり言って、この男は私を心配していない。
自分が何者であるか模索しているこの聖職者は、義兄として心配していようと、人間としての感情、或いは興味が動くことは、まだ起きていない。偽物だ。曖昧な存在である私には、何となくだが、それが解った。

『ご馳走様でした。……義兄さんが何を考えているのかは、当然解らないけど』

器を持ち上げ、台所へ持っていこうとする私を見ることは無い。でも耳を傾けていることは感じ取れた。

『アサシンを使って色々欺いている時点で、もう方針なんて決まっているんでしょ』

返事を聞くつもりもなかったので、そのまま場を後にした。
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