とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 16
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なんとか皆で朝を迎え、朝食を摂る。あまりにも穏やか過ぎて、嫌な予感しかしなかった。
政府が情報を持っていながら、私を野放しにするはずがない。危険分子に対しては敏感なはずだ。
何も無いほうが良いに決まっているが、それはそれで不気味だった。
――嵐の前の静けさ、という言葉が脳内に浮かんだ。

「あるじさま」

イマヅくんが近付いてきていたことに気付かなかった。
慌てて目線を合わせ、用件を聞くと、おきゃくさま、と返ってきた。

「まえに、あるじさまのかみをきれいにしてくれたひとです」

ミコトさんだ。彼もまた、政府の人間である。懐の札を確認し、玄関にイマヅくんを連れて足を運んだ。
一歩一歩が重い。近づく度に、緊張と警戒で心臓が鼓動を早める。嫌な汗が、体を伝っていた。





「こんにちは、日高さん」

いつも通り、感情の読めない笑顔で。いつも通りに接してくる。
普通なら毒っ気が抜けるのだが、今日ばかりはそうはいかなかった。

「どうされました?とても表情がお硬いように見えます。心なしか、本丸の空気も重くありませんか?」

『……今から、政府の方に話をしに行こうと思っていたところですよ』

「そうですか。それはできない相談です。私にも目的がありますからね」

咄嗟に式神を後方に放ち、緊急事態だと伝えようとした。――だが、それは叶わなかった。
外気に晒した瞬間、式神は粉々に散ったのだ。イマヅくんを直接巻き込むわけにはいかない。
そう思い、私の後ろに隠そうとした。

「無駄です。今剣殿の心は、とっくに過去に魅入られています」

その足元に、禍々しい黒い靄を纏ったこんのすけがいた。光忠さんが狂った原因も、これではっきりした。
そしてそれを使役しているのは、目の前にいるこの男である。

『今までどれだけ、私たちが苦しんできたと思って!?』

「……日高千穂。重要危険人物として、同行を願う。断れば、手段は問わない」

『ふざけるな!いつだってあんたたちは勝手だ!私たち所詮一般人に、選択肢を与えない!せこいんだよ!!』

「……全くですよ」

予期せぬ同意の声を耳にするのと同時に、意識は簡単に闇に沈んでしまった。





その後、ミコトは黒い靄を本丸内に放ち、刀剣たちを弱体化させると、千穂を連れて立ち去った。
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