とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 13
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私という存在は、実は遍く知られているものなのである。
人々が神を意識しなくなったことで、忘れ去られてこそいるものの。
名を知られていないことだって、珍しくはない。
しかし、人間世界において最も身近な高位神であると自負している。
だから今まで、魂のゆりかごを必要とすることもなかった。
だがそれも文明の発展に伴い、徐々に困難になり、ついに私もとある少女に寄り付いた。
日高千穂――強い霊力により、災いに敏感になって、常に不可視の何かに怯えた生活をしていた少女。
強い力が人を狂わせるというのはよくあること。他者への支配願望や自己顕示欲などが解りやすい。
でも千穂は違った。力を拒み、できるのであれば普通の生活を望んだ。ひとえに、災いから皆を守りたかった。
幼さ故かもしれないその願望が、私にとってはとても居心地の良いものだった。





彼女の成長を、誰よりも近くで見守ってきた。
力を失ってもなお、幼き日々で得た、皆を守るという願望が失われることは無く。
明朗快活な性格は、冷静沈着なものに変わってしまったけれど。
日高千穂は、強くあろうと努力し、他者に惜しみない優しさで接し、眩しい程に内面が美しい人間だった。
だというのに――。





政府は彼女の力に感付き、無理矢理に力を目覚めさせた。私が封じ、ゆっくりと育ませるつもりだったものを。
千穂は気丈に振る舞っていたが、実際はボロボロだった。泣くこともできず、仕事で“負”を忘れようとした。
悪循環は、彼女の内側に強迫観念を形成し、常時強い力を発揮するのと同時に、消耗をも大きくしていった。
何も千穂だけではないだろう。政府に招かれた審神者は、少なからず同じ事態に陥っているはずだ。
どう考えても非効率。それを止めようとしない政府は、とうに国民を守るという役割を失っている。
審神者を捨て駒にしてでも、社会と国を守る。これならまだましだ。
だが恐らく、国民を捨て駒にしてでも、自分を守る、というのが実情だろう。
私はこのようなことを望んでなどいなかった。





せめて、千穂だけでも護りたいと思うようになった時点で、私の本分は無くなったようなものだったけど。
彼女が守ろうと、創らんとする世界は、きっと私が望んだ日本の在り方だから――。
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