とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 12
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「主、気がついた?」

『っ、うん……。ね、小夜くん……。私、どれくらい寝ていた?』

「……2日だよ。僕たちが駆けつけた時には、穢れはなくなっていた。代わりに、2人はぼろぼろだったけど……」

『皆、無事……?』

「主の浄化のおかげで、光忠以外は何ともない。光忠は、穢れの侵入を許したせいで、今も……!?」

布団を飛び出し、光忠さんの気配を辿った。
穢れのせいとは言え、あんなことがあった後で顔を合わせるのは私だってごめんだ。
だがそれ以上に、仲間を失って平気でいられる私ではない。甘くても、優しくても。
気配は太郎さんの部屋から感じ、断りもなしにふすまを開けた。
中には、面と向き合って座している太郎さんと光忠さんがいた。少なくとも、自刃とかではないらしい。
ほっとして、ずるずると床にへたり込んだ。

『よ、良かったあ……。生きてた……』

「死なせはしませんよ。貴女が悲しむのは目に見えていますから」

『うん、有難う、太郎さん』

「それはそうと、冷えますから中へ」

もう一度立ち上がり、ふすまを閉めて入室した。空気は重い。当然と言えば当然だ。
穢れが蔓延し、あまつさえ被害者が出てしまったのだから。

「主にも聞いていただきましょう。光忠が続けようとした政府が何をしているかという推測を」

「……今となっては、確信を得てしまったんだけどね」

『もしかして、穢れに憑依されて、何か、見えました?』

「ああ。……主」

体の向きを私の方に向け、光忠さんは深く頭を垂れた。無言の謝罪。
彼も被害者だというのに、私に対しての不貞を、どうあっても許せなかったらしい。
何をされても文句を言えない、言わない。そういう意思表示のつもりなのだ。

『……私、政府が悪いことをしているなら、認めさせて、謝罪をさせたいです』

私にとって、真っ先にしなければならないこと。これは審神者の職務を一時放棄することに同義。

『歴史修正主義者を止めることだって、忘れた覚えはありません』

放棄した分の尻拭いは、自分で行う。他の審神者に任せたりはしない。

『そして、私が何故審神者になったのか、はっきりさせたい』

本当は真っ先に知りたい。だけど、この我が儘を通すほど、私は子供であるつもりはなかった。

『この3点に、光忠さんは追従してください。……それを、罰にしてください』

私は甘いから、罰を与えられない。そうだと解っていて、光忠さんは私に罰を強要している。
だから、これは私のせめてもの譲歩。一蓮托生の関係の強制。光忠さんはゆっくりと顔を上げた。

「……解った。その先が破滅でも、共に在るよ」

『物騒ですね。間違ってはないですけど。……それで、光忠さんの推測って?』

「今回ので解ったよ、充分。政府が審神者を殺している」

『な、なんでそんな!?自分たちを追いこんでいるわけ!?』

「落ち着いてください、主。全てを聞けば、解ります」

太郎さんに宥められ、呼吸を整える。混乱はしているが、幾分か落ち着いた……ような気がした。

「政府が殺す審神者は2種類。適性者でありながら、審神者になることを徹底的に拒否した者。
そして、力を持ち過ぎた審神者だ。前者は不要な芽を摘むという意味だね。後者は……安心したいんだとさ」

『安心って……、政府は、力を持った審神者が国家転覆を謀ると考えているってこと!?』

光忠さんは頷いた。歴史修正主義者も審神者も、政府からしてみれば異形と何ら変わらないらしい。
自分たちだけ甘い蜜を吸い続けるため、それを脅かすなら敵味方関係無し。……呆れた。

『危険(リスク)を伴わない報酬(リターン)なんて、あるわけない……!!』

「だから、歴史修正主義者の殆どは、現代の政府から逃れた適性者や審神者だ。
やり方を間違いはしたものの、国を守ろうとしている者たちであることは違いない」

「光忠の話は、穢れから読み取った確かな情報らしいので、自ずと主の穢れや異形に対する推測も、ほぼ間違いが無いということになるでしょう」

『あ、あの!異形になってしまった穢れは払えますか?』

「「…………」」

急に沈黙が襲った。太郎さんは光忠さんをじっと見つめ、光忠さんは困ったように頭を抱えている。
……その様子で、何となく想像がついた気もするが、口にしたくなかったので、あえて黙った。

「えっと……、異形も元は穢れの塊だから、できはする。当然危険も覚悟してくれないと困るけどね」

『それは、勿論……』

「軽度の穢れであれば、審神者がいるだけで払われてしまうけど、刀剣男士は条件的に穢れが溜まる速度が速いんだ。だから皆、君によく触れようとするだろう?」

『……からかっていることもありますよね?』

「あるけれど、死活問題なんだよ。肌が触れることで、直接浄化の力を受けるんだ。
そして重症度が増すたびに、その接触も増やさないといけない。抱擁だとか、粘膜干渉……口づけや、情交とかね」

『(ああ、嫌な予想が当たってしまった……)』

「補足すると、同種族の異性との接触歴が少ない程、効力は大きくなります」
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