とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 12
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『(そもそも穢れには実態が存在しない。集合しても強大な穢れになるだけ。異形になど成りえない)』

私の穢れ、異形に関する認識はこうだ。
人の負の念の総称である穢れは、生物に認識されるために、何らかのモノに憑依する。
概念の存在である穢れは実態を得て行動を開始するが、そこに生物の機能である理性が存在しないため、根底にある目的を果たすための行動はできない。まさにバーサーカーである。
それを制御しえるのが、歴史修正主義者という例外だ。しかし歴史修正主義者には解りやすいある共通点がある。
異形の得物が刀剣であること。これが物語る真実は、歴史修正主義者は審神者適性者であるということ。
穢れが刀に宿り、物のままなら妖刀になるところ、審神者適性者がそれを用いて刀剣男士を召喚する。
結果として刀剣の穢れは付喪神に及び、異形になり果てる。

『(そして、これは政府の審神者管理がままならないことを示す。
私に課された行動制限も、きっとそういう意味合い。……でも、これだけじゃ、完全じゃない)』

このままの発想だと、期せずして歴史修正主義者になってしまう適性者が多く出かねない。
歴史修正主義者とて生半可な気持ちで行動しているわけではないのだから、そういう人は絶対に少ない。
意図的に歴史修正主義者になった適性者が多い理由を考えてはみるが、中々思いつくものが無い。
自分の中で導き出された答えに執着しているせいであるのは、重々承知していた。
凝り固まった思考では、新たな案を出せはしない。誰かの助力を請うべきか。だとすれば誰が適任か。
それを考えていたところ、自分以外の声で思考の海から意識が浮上した。

『ど、どうぞ』

「……ひょっとして、なにか考え事でもしてた?邪魔してごめんね」

視線を上げて、自分が長い間思案していたことが解った。昼から考え込んでいたのだが、辺りはすっかり真っ暗。
光忠さんの持っている懐中電灯だけが、煌々と輝いていた。
私が行燈をつけようとすると、それよりも早く、光忠さんが明かりをともしてくれた。

「あまりにも部屋に篭っているものだから、心配になってね。ご飯だって食べてないし」

『すみません、考え事のせいで、どうも気が高ぶっているみたいで』

「君は真面目だからね。程々にして休むか、僕で良ければ相談に乗るけど、どうする?」

……少しだけ、考えた。この意見を共有し、同意しようものなら、仮ではあっても政府に立てつくことになる。
私は良いが、彼らにまで被害が及ぶのは全く望んでいない。だが、同時に頼ってほしいという言葉も思い出す。
光忠さんは相談役としては申し分ない。本人には悪いが、その母親のような包容力には何度も助けられた。
意を決し、私の出した結論を口にした。





「――成る程ね。主の意見を完成させるなら――」

『止めないんですか?』

「止めてほしい?」

『え、いや……その……』

「別に僕たちは、主だから君に従っているんじゃないよ。
そりゃあ最初はそうだけど、時間が経つほどに君を知ることになる。
そうなれば、君の人柄が愛おしくなって、一緒に居たい、仕えたいと、心から思うようになる。
ここにいる古参の連中は、口にしないだけでそう思っているんだよ。だから、君を尊重する」

『…………』

「話を戻すけど、君の意見の凝り固まりが、矛盾を生んでいるわけじゃない。君の優しさだ」

『?』

「君は“審神者管理がままならないこと”が政府の隠したい事実だと認識し、“それだけ”だと考えた。
たぶんそこがいけなかったんだと思うよ。
主の心の中には、認めたくないかもしれないけど、まだ政府を信じたいという気持ちがある。
これ以上に、政府が悪いことはしないだろう……いや、してほしくない、かな」

『……そう、か……』

非常に不本意だが、納得せざるを得なかった。
そして光忠さんが直接言わなかっただけで、これは優しさではないことも理解してしまった。本当は甘さ。
それ故に、正確な認識を放棄してしまった。

「主の優しさは美徳だよ。失ってほしくはないな。君に足りないものは僕らで補うから、ね?
……さて、じゃあ話を先に進めよう。政府をそれ以上の悪にする方法なんて簡単だよ。政府が審神者を――」

急に言葉が止まった。それだけなら、まだ良かった。本丸にはあり得ないほどの、禍々しい空気が漂い始めた。
結界は機能している。つまり、内部から“穢れ”が発生したということだ。

『まさか、こんのすけが!?』

あれは狐の皮を被った別の何か。そして狐は人を化かすことに長けた存在。あれが何をしても納得できてしまう。
すぐに止めさせねば。そう思ったものの、身動きはとれなかった。
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