とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 11
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本丸は和風建築だ。内部にはあまり洋式、現代的な利器は置いてない。
ぱっと思いつくのはキッチンとお風呂くらい。テレビなどの情報端末はないし、洗濯機もない。
しかし、いい加減苦情がきた。非効率的だから、どうにかしてほしいと。

「俺っちは掃除機を購入したい」

「アタシは洗濯機だね。全自動の」

「冷暖房があると助かります……と皆が」

上から薬研くん、姐さん、へーちゃんだ。何故今頃決起したかのように来たのだろうか。
別に個人でも話を聞くというのに。……と思ったが、理由が解ったことと、今更だったので聞くのを止めた。

『薬研くん、かなり点数溜まっているんじゃない?』

「おう!100点くらいなら軽く、な」

『商品はもう決まってるの?』

「ああ。確認したら、ちゃんと保証付きだった」

チェックの入ったカタログを渡され、軽く目を通す。
隣の物と比べたが、様々な条件を考慮した結果、これになったことがよく解った。

『解った。経費から落とすよう、上には連絡しておくから、手続きを済ませてくれる?』

「まかせとけ。ありがとな、大将」

『はいはーい。で、へーちゃんは冷暖房か。気候は整えているつもりなんだけど、何かあった?』

「僕はなくても良いと思ったのですが、一部の人があまりに言うので気になって……」

『……それって、髪の長い人や、鍛練好きが多いんじゃない?』

「!はい、その通りです」

『……そんなに煩い?』

「……残念ながら」

『……冷暖房は却下するけど、乾燥機(ドライヤー)と扇風機なら検討できる。商品の選び方は大丈夫?
解らなかったら、薬研くんに聞くと早いと思う』

「解りました。また伺います」

『何度でもおいで。……さて、最後は姐さんですね』

「うんうん。というわけで『却下です』なんで!?」

なんで、と言うか。どの口でその言葉を発せられたのだろう。私は赤いノートを姐さんの前に出した。
ノートの色とは裏腹に、姐さんの顔色は段々と青くなっている。本人は凄く身に覚えがあるはずだ。

『知らない、とでも思いました?……何故、酒代がここまで膨らむんでしょうねえ?』

「いや、これには海よりも深いわけが――」

『問答無用!!』

更に白いノート(総括)と黒いノート(食費)を積み重ねた。姐さんの酒代は、経費落ちしない。
審神者の労働の対価で貰う給料から落ちている。
そこから全員に月額1万円で小遣いを支給しているが、不満の声はない。
皆ちゃんとやりくりできているわけである。……姐さんを除いて。

『溜まっていくポイントを利用して、物をせがむことは許しました。
ですけど、あまりに度を越しているんですよ!!酷い時には借金紛いな事をしているじゃないですか!!』

「げ、そんなことまで」

『ここの厳重監視体制も舐められたものですね。報告は上がっているんです。
最初の頃は良かれと思って貸した人から、数か月返金されてないという話がもうすぐ両手に収まらないくらい』

反省しているんですか、と冷ややかな視線を投げつければしゅんとなった。しかしまだ温い。
放っておけば再犯する。酒好きは、こういう時はたちが悪い。何も洗濯機を鼻から否定しているわけではない。
否定しているのは姐さんの酒へのお金のつぎ込み方だ。

『……姐さんのお小遣いは、借金返済まで0にします』

「っ!?そんな殺生な!!」

『黙らっしゃい!それが飲めないなら洗濯機購入は永遠にさよならだ!!』

「う……、解りました……」

『因みに借金も禁止ですよ。食事の時に全員に通達しますから』

「はい……」

『式神が、今のをしっかりと記録しましたからね。もう言い逃れはできませんよ。じゃ、希望を見せてください』

カタログが差し出されたので、受け取ろうとした。
しかしそれは叶わず、すっぽりと姐さんの腕に収まってしまった。

『……離して、姐さん』

「……やだ。ねえ、どうしても駄目?」

『甘えても無駄です。反省しなさい』

「でもさ、この状況であんまり抵抗しないほうが良いと思うよ?
アタシ、これでも男だし、アンタを好きにすることくらい――」

『長谷部さん助けてー!!』

「主!?次郎太刀、貴様!!」

「うわっ!!ちょっと、千穂!!いくらなんでも酷くない!?」

『おーおー、どの口が言うんだ、どの口が。こんのすけ!!』

「はい、何でしょう!」

『これから私が良いって言うまで、姐さんが怪しい行動をしないか見張って。政府にも無関係な話じゃない。
何かあったら即時報告。宜しく』

「はっ!解りました!!」

「何それ!?アンタいつの間にこんのすけを味方にしてたわけ!?」

『姐さんがお酒を飲んでいる間に、ですよっ』

紫の札を投げ、姐さんを麻痺させた。
そのまま太郎さんに回収してもらい、姐さんは当分の間、衆人環視の刑に処されることとなった。
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