とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 10
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「扇が簡易の結界作成と、剣代わりになります。小狐丸を一時的に抑えるには充分でしょう」

宗三左文字(宗さん)に扇の霊力について学んでいる。それもこれも、小狐丸(シャオ)から逃げるためだ。

「護身装備は信仰心に比例して強くなります。何の変哲のない枝でも、信仰で付喪神が宿れば充分な武具です」

『(ああ、アーサー王伝説の……ランスロットみたいなものかな?)』

「あくまでも一時凌ぎですから、即刻撤退するのが正しいのですけどね」

『(信仰か……。見つめてても変わらない?)』

「話を聞いていますか」

『信仰した物に付喪神が宿り、武器となって装備者を守るってことですよね』

「熱い視線を送ってもどうかなるわけではありません。貸してご覧なさい」

流れるような所作で扇を持って行かれる。こう言うと悪いが、流石天下人の剣である。
女性でさえ目を奪われてしまう美しさがある。そして幻視した。
閉じた扇を振るった瞬間、それが剣に見えたのだ。戦場に降り立った、宗三左文字そのもののようだった。

「……解りましたか?」

『……それはもう、この目で感じ取りました。凄いですね……』

「……いえ。感じ取れたのであれば、まだ才能がある方かもしれません。刀が、見えたのでしょう?」

『はい。貴方が、しっかりと』

「あなたは、物事を直感的に捉える方なのですね。心眼の件といい、今回といい……」

『……褒めていませんね?』

「褒めていますよ?」

はっきり言おう。嘘だ。直感的というのは聞こえが良いが、悪く言えば動物的・野性的・考え無し。
怒る気にはならないが、馬鹿にされていることはよく解った。

『霊力だの何だの、非科学的なことは考えても解明できないからそうなんです。
だったら、直感的な行動の方が正しいと思いません?無駄も省けます』

「……ではあなたは、私たちに対しても直感で接していると?」

『いちいち言い方が引っかかりますね……。素です。言葉には気を遣っていますが、かなり自由にしていますよ。
……外では、良い子の私が求められていますから』

ここでなければ、私は“自分”になれない。籠の鳥と嘆く宗さんは、私には哀れで、滑稽で……羨望の対象で。
ああも自分のスタンスを変えないというのは、私にはできない。……卑屈さは褒められないが。

「……理には適っていますよ。大切なのは、そこにあると相手に思い込ませ、また自分も信じることです」

未だ見える幻視の刀を、宗さんは逆手に持つと、ゆっくり、己の腹部に近づけていった。

「!主!?」 『何してるんですか!?』

手から転がり落ちたのは、どう見ても扇だ。咄嗟に手を掴んで、自刃紛いの行為を止めていた。

「……馬鹿なんですか、あなたは。あれは扇ですよ」

『違う……!宗さんは、私が扇に刀を幻視しているって解っていた!だったらあれは、自刃でしょう!?』

「だとしても、関係は――」

『宗三左文字!貴方は、私の刀です。……死ぬことを許したつもりはありません』

「あなたも僕を侍らせたいだけでしょう!?天下人の剣である僕を!!」

『間違えるな!お前は本物じゃない!!ここにいる全ての剣が、本物を原型に作った私による“似せ物”だ!
断じてお前は、“天下人”の宗三左文字ではない!“私”の宗三左文字だ!!』

敵意を示していた宗さんの目が、驚愕を映して見開かれた。……どれほどの時間、静止していただろうか。
もう片方の手が、頭に乗った。あやすように、撫でられる。

『……何ですか』

「いえ……、流石に衝撃の告白でしたからね」

『おかげで嫌でも解りましたよ。“扇”の使い方』

「馬鹿正直で、思い込みだけで危機を乗り切ってきたような主です。解って当然でしょう」

『一言多いんですよ、いちいち』

でこぴんして宗さんから離れ、扇を刀同様に差す形でしまう。
そのまま退出しようとして、振り向きざまに有難う、と言っておいた。
最後に見た宗さんの表情が、拍子抜けしたようで可愛かった、というのは私だけの秘密。





【その後】
じいいいい 『(視線を感じる……)』
「ぬしさまー!!」 『峰打ちじゃああ!!』 どごおっ
『おお!凄い!!霊力があればどんどん強くなるんだ?』
「(まさか、僕(宗三左文字)を思い描いて使っているとは……)」
『うんうん!この調子で頑張ろう!』
「(……まあ、主を守るものであれるなら良いでしょう)」
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