とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 10
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鏡に関する迷信というのは現代の世にも出回っている。
合わせ鏡は霊道が通るだとか、魂が取られるなど、良いものではないほど多く広く。
全部が間違いというわけではないが、大体が鏡の神秘的な力を畏怖して作られたガセだ。
そして審神者と鏡は切って離せるものではない。その力にあやかる必要があるから。
結界を張る時、その霊力を少なからず利用する。出陣した刀剣たちを見守る際にも用いる。
勿論他にもあるのだが……。

「真贋の判別がつけられるのは大事だよ。虎徹には勝手に名を騙る不届き者が――」

『黙りなさい。私に下る意志のあるものであれば、その真贋関係なく受け入れます。
……この力、いつ役に立つのかと思えば……』

手元には二振りの小狐丸。どちらもちゃんと実体化できるのだが、今は鏡に魂だけ封印してある。
これは政府からの依頼。片方は敵が奪ったもの、もう片方は殺された審神者のもの。
どちらにしてもその魂が正常でいられるはずがない。魂に問い質すのが最良行為なのだが、それができない。
そこで好き好んで訓練をしている私に、面倒事が押し付けられたというわけだ。
侮られていると思うと腹が立ったので、ミコトさんに協力してもらい、遂行できた場合は本丸に出資するように言っておいた。話を聞いたミコトさんは顔を真っ赤にさせて笑っていた。

『嬉しくない、能力の使い方だなあ』

「殺害された審神者の無念を晴らすためにも、そして主から引き離された刀のためにも、大事な仕事だよ」

『そうですけど……管理できていない政府に呆れる』

刀剣そのものは同じものに見える。審神者に目利きの能力は備わっていない。
できるのは鏡の霊力を自身の霊力で強化し、物の真贋を見抜くこと。
しかし私は力があることは知っているは、使い方を把握していないのだ。
そこで真贋に煩い蜂須賀虎徹(徹さん)にも協力を求めたのだが、どうもそりが合わないため、上手くいかない。
私にとって真贋は重要事項ではないから。決して徹さんが嫌いなわけでも、悪いわけでもない。

「……君さ、見極めようとしているのなら違うからね」

『ですよね。ただでさえ私の視力は良くないですし……』

「違う。式神と鏡を通して刀を見ることは誰にでもできる。真贋判別は、何を真と定義するかから始まる。
今、真とすべきは殺された審神者の無念だ。刀ではなく、魂の奥に眠る想いを感じ取ること。
今必要なのは肉眼ではなく、心眼。刀ではなく、鏡に封じた魂を見つめるんだ」

見かねた徹さんから細かな指摘が飛ぶ。式神と鏡の接続を切り、魂をギリギリ表面まで持っていく。
魂に色は無い。鏡は私の顔を映し、魂の存在を示して歪む。

「こちらが覗くとき、あちらもまた覗いている。魅入られることのないように」

『…………』

なかなか難しい注文だ。神様の忠告だから聞き入れたいところだが、所詮人間である以上、相応の覚悟をした。
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