とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 04
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短刀や脇差を持つ敵を討ちつつ、非戦闘要員の審神者を回収する。
狭い空間で色々なものがごった返しになっていて、戦場の戦闘とは訳が違うと思った。
いや、戦闘が始まれば、どこであっても戦場か。敵味方が入り混じる。
余程こちらの方が戦場らしいのかもしれない。もはや惨劇を迎えてもおかしくない状況である。

『一期さん、打開策とか、あります?私が、援護しても、良いですけど!』

「……難しいですね。貴女は無理をしているし、混乱が収まる様子もない。
主を守るくらいしか、頭が働きません」

『じゃあ、私が、渾身の一発を放ったら?』

ぴっと。緑の札を用意する。
一期さんは私がやろうとしていることを理解したようで、どこまでもお供しますと応じてくれた。
いくら鍛錬しても、札は足止めしか成功しない。
ミコトさんとの一件があったというのに、支援の札が成功することは一度もなく。
でも、今ならできるかもしれないと。言いようの無い確信を抱いていた。
皮肉にも、命の危険に晒されている今なら――!!札を真上に投げ、刀を掲げる。

『緑符、急々如律令!!敵を、穿て!!』

一瞬だけ、風の流れがやんだ。そして――的確に霊格を破壊する透明の刃が見えたような気がした。
勿論全部を破壊しようものなら、私の寿命を今度こそ削る羽目になるから、取りこぼしもあるのだが。
崩れ落ちそうになる体を、誰かが支えた。一期さんでも、和葉さんでもない。

「――遅いぞ、青江。近侍のくせに、どこほっつき歩いてた」

「すみません。残念な審神者を救出していました」

「間違ってもその子の事じゃないだろうな?」

「君のご友人に、残念な審神者がいるはずがないだろう」

「当然だ。千穂ちゃんを安全なところに移動させ、護衛につけ。一期一振、残党狩りに協力してくれ。
主の安全は保障してやる!」

「承知しました!」

一期さんと和葉さんが、私から遠ざかって、戦闘を始める。……悔しい。戦えないことじゃない。
協力したとはいえ、足手まといの状態である自分が。

「千穂さん、とおっしゃいましたか?」

言葉を出すのもおっくうで、小さく頷く。

「主が新しい友人を見つけたと連絡を入れた時には驚きました。あの人に友人は少ないですからね。
それがまさか、貴女のような可愛らしい方だとは……」

いつもなら可愛い、なんて褒め言葉には食って掛かるのだが、生憎自由がきかない。

「千穂さんは、主についてあまりご存じないでしょうから……。
詳しいことはお教えできませんが、彼女は思っている以上に冷たい方ですよ。
そんな主が、貴女の味方なんです。貴女は自身を誇っていい」

冷たい人……というのは、なんとなく解った。
だって、和葉さんはさっきから、戦えない審神者を見ては煩わしそうに、舌打ちする振りをしている。
守時は、戦闘能力に特化していなければ選ばれない。各時代に潜み、敵を殲滅する審神者。
守時の戦いは、基本一人で行われる。刀剣にも、己にも、甘えを許さない。
単体で集団を撃破できるように。効率的な狩りを。戦闘狂でなくとも、殆ど同じだ。

「っ!危ないですね!」

銃弾が飛んできて、それを青江さんが斬り伏せる。どうやら、和葉さんの弾を敵が弾いてきた、流れ弾らしい。

「それくらい防いで当然だ。貴様、千穂ちゃんを傷付けるなよ」

「君の言葉に妙な含みが感じられるのは気のせいかな!?」

「戦闘での被害が及ばないのは承知の上だ。貴様も一応、男だからな。変な気を起こす気がしてならん」

「起こすわけないでしょう!全く、僕を何だと思っているんだ……」

「女斬った変態だろうが」

「名誉きそ……じゃ、ない……!?」

戦場でこんな茶番を見ることになるとは思わなかった。





「すっかり食事って感じじゃなくなったな」

「主もかなりお疲れのようです。日を改めるのも、難しそうですね」

「青江がさっさと来ていればな」

「もう女子供を斬るなんて、自虐みたいな光景は見たくないんだよ」

「安心しろ。お前がそんなのを見て使えなくなったら、私が殺してやる。……千穂ちゃん、しっかり休むんだよ」

『……また、会えます、か?』

和葉さんは綺麗な笑顔で、こう言った。

「約束できないことを、言わせるのかい?」





「和葉殿はああ仰られていましたが、会う機会は充分ありますよ。気を落とされないでください」

『……うん、解ってる』

一期さんに横抱きにされ、そう長いわけでもない道のりを、いつも以上の時間をかけて帰る。
新しい出会いも、波乱の襲撃も。とにかく今日は多くのことがあり過ぎた。
明日一日くらい、ゆっくりしたいな。そう呟けば、弟たちの面倒は任せてください、と返ってきた。
たまには休んでほしいと言えば、明日は貴女のお見舞いですから、と返される。
不毛な応酬だって、我が本丸には大事なことだ。だから……きっと和葉さんのように強くはなれないのだろう。

「私たちは千穂殿にお仕えしています。貴女と言う主だから。和葉殿と比べることは、されないでください」

思っていることが顔に出るうちはまだまだだ。
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