とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 02
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たまの気まぐれを起こし、演練に同行することにした。いつもは出陣時同様、本陣に篭って指示を出すだけだ。

「わっ!」

『!!!?』

「ははは!相変わらず反応が面白くてやりがいがあるなあ!」

『……やりがい感じないでください。刀解するぞ』

「まあ待て……っておいおい!刀を抜くなんて、穏やかじゃないなあ!」

『己の血に染まれ、鶴!!』

心臓が飛び出そうになるのを必死でこらえ、本日の護身刀(宗三左文字)を振りかざす。
神様の方は、恐らく本丸で何事かと驚いているだろう。すみません、鶴丸国永(カクさん)の悪戯好きのせいです。

「主殿!こう言ったら悪いが、少し前まで普通の女子だった君に、負けるわけないだろうっ!!」

それは解っていたものの、いい加減我慢ならなかったのだ。脅かした側に諭されるなど、怒りがたまって当然だ!
一撃目は私の攻撃。解りやすくわざと大きめに振りかぶったため、容易くかわされる。
しかし勢い殺さず、刀を方向転換させて追撃を放つ。これにはカクさんも刀で応じた。
そのまま勢いを別方向に流され、三撃目はカクさんの攻勢に変わる。これは刀に当てるだけ。本撃はその次。
三撃目で私の肉体的負荷を増し、刀への衝撃を予想と違うものにすることで生じる錯覚が、必然的に油断を招く。

「はい、終了。降参するんだ」

『しません。刀はまだ落としていません』

「喉元に刀突き付けられて、その気概か。これは驚きだ」

緩く笑みを浮かべるが、全くもって容赦している様子が無い。
女だから、子供だからと、油断しないというのはありがたい。
しかしその根性を悔い改めてもらわなければ、本丸の治安は守れない!

『!!』

「これで、降参する?」

本当にいつの間にか。刀を叩き落とされていた。地面につく前に、カクさんが柄を握っていたが。
平安からの刀だというのに、この陽気さと殺気はどこから湧いて出るのやら。私は大人しく降参した。

『あーもう!今日は諦めます!煮るなり焼くなりお好きにどーぞっ!!』

「勇ましいな!それじゃひとつ……」

公的外出の一環なので、現在の学校の制服を着用していた。しかしこの時のこれで後悔した。
せめて面布を用意すべきだったと。

「じゃ、ごちそーさま。俺の活躍に期待してて」

『…………』

ぺろっと。左頬を舐められた。はっきり言って、私は彼氏いない歴=年齢の人間だ。
そんなことをされて、平気でいられるだろうか。当然否だ。
思考は暫く停止し、正気を取り戻すのと同時に、羞恥心と怒りが込み上げてきた。勝ったのは羞恥心である。

『〜〜〜っ!!(あのじじいっ!生娘の肌に何してくれてやがる!!ひいいいいいっ)』

応急処置にもならないことは重々理解した上で、肌をごしごしと擦る(削る)。凄く痛い。
赤くなっていることだろう。

『(後で絶対半殺し……!!)』

「主ー、ってどうかした!?顔真っ赤じゃない!!」

『次郎姐さん!!カクさん一緒にぶった切って!!』

「……あのおやじ、いよいよアンタになんかしたわけ?」

『あ。えーっと、ほっぺをぺろっと』

「鶴丸うううううう!!」

「……演練できるのか?」

『何言ってるんですか、和泉さん。カクさんが重傷負って必殺技を見せるまでは帰れませんよ』

「アンタ、前の主よりも鬼だな」

『乙女の貞操的な何かを奪っておいて、いけしゃあしゃあと生き延びるとかありえません』

「はあ……。あ、鶴丸が負傷したぞ」

『よっしゃ!あ、そっちの蛍丸くーん!頑張ってー!!超頑張ってー!!』

「主、酷くない!?」

『煩い!殺されないように見ててやるから重傷でも負え!!』





演練での怪我は、場を設けている政府の手入師がちゃんと処置してくれる。
カクさんはぴんぴんした状態でその日の演練をこなし、私も他の審神者と有意義な時間を過ごすことができた。
お互いに満足はしていたが、それを共有することもなく、演練を終え帰還した。
即時に自室にこもり、巫女服へと着替えを始める。上着のボタンを全て外しきった時だった。
何の断りも無しにふすまが開かれ、カクさんが突っ立っていた。沈黙3秒。

『閉めろ』

「…………」

謝罪もなく扉は閉まる。今日の運勢は最悪なんじゃなかろうか。たぶんアンラッキーカラーは白。
急ぐこともなく、マイペースに服を着替え、制服をたたむ。

「なあ、主……」

『…………』

子供っぽいとは思うが、私はふてくされてして、口も利きたくないと思った。
しかしそれを解っているのか、返事も待たずにカクさんは言葉を続ける。

「軽い気持ちで、君に触れたことは悪かった。
あと……これはお膳立てでも何でもないから、いい加減に聞かないでくれ」

流石にここまでカクさんがしおらしいとなると、私としても罪悪感……は生まれずとも、真摯に聞こうと、負の感情を割り切るくらいのことはした。

「あの時見た君の目は、ミスミソウのような紫だと思った。正直、見惚れた」

『……それ、口説き文句に近いです』

ふすまを隔て、小さな笑い声が重なり響く。ヤヒロさん同様、彼もまた私の素顔を知る一人となった。
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