とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 前日譚
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「初めて触れただけで付喪神を呼び出すなんて、聞いたことありません。やはり貴女は大物になれますよ」

『……おだてられても何も出ませんよ。最初から規則を破ったことになるじゃないですか……』

いきなり付喪神……山姥切国広を起こしたことに、老人は驚いていた。決して特別珍しいことではないらしい。
ただそういう現象は、元々そういった血筋であれば、の話であり、私のようにぽっと出だと稀。
結局珍しいということになる。このため、「顔と名を伏せる」という規則を始めから守れなくなった。

「あまり気になさらないでください。ご老体は貴女を侮っていた……それだけのことです。
こちらで起きたことに関しては、私が責任を持って処理いたします。日高さんに迷惑はかけませんから」

『はあ……』

「それでは、再びお車に乗られてください。
転校先に足を運んでいただいたのち、一度拠点でお休みを取りましょう。
何も初めから務めをこなせ、などという無茶は言いません。
殆どの適性者が1週間でやっと、基礎を覚え、付喪神を呼び覚ますくらいです」





とまあ目まぐるしく1日が経過し、男性から1週間のスケジュールを渡された。
男性は終始笑顔で、名前を名乗らなかった。正直、騙されている気がしてならない。
しかし、ここで気を休めている暇はないのだ。

『……遅くなりました。改めて、私は日高千穂。初めから失敗した、成りたての審神者です。
……いえ、まだ一人前の審神者でもないので、せいぜい巫女か何かでしょうか?
ご迷惑をかけるでしょうが、宜しくお願いしますね』

「……何故、俺を選んだ」

諦めたような気配を持つ彼が、こちらに目線を向ける。

『聞き捨てなりませんね。私は選んでいませんよ』

「選択肢は他にもあと4つあっただろう。俺みたいな写しじゃなくても――」

『山姥切について、私は詳しくありませんし、貴方が誰に打たれたかもよく解りません。
私にとって、山姥切国広とは貴方です。私にとっての本物です』

「そんな、屁理屈……――」

『私と貴方は似ています。私、ここに来る前に「別に俺じゃなくても」という声を聞きました。
同じ時に、私は同じことを思っていました。審神者の代わりなんて沢山いるだろうと。
別に私じゃなくてもいい、私に意味はないとね。でも、貴方に会って解りました。
似た者同士、上手くやれるんじゃないかって。このために選ばれたんだと、そう思うことにしたんです』

「……代わりがいるなら、逃げ出せばいい。俺は止めない」

『その時は、貴方も一緒です。他の山姥切を気にしなくて良い所に逃げましょう』

「……あんたは……、いや、なんでもない。……命じられたら従う。それでいいか?」

『今は及第点にしておきます。私は仲良くなりたいです。せっかく唯一名前と顔を明かせる神様ですし』

呆れた顔の山姥切国広に、「ヤヒロ」さんというあだ名をつけ呼ぶことにした。


この後1週間、私は審神者の何たるかを学び、その身に修得させ、正式な審神者となった。
当初は沢山怪我をしていたヤヒロさんも、余裕をもって勝利できるまでになり、仲間も増えた。
前日譚はここまで。前途多難ではあるが、今日も一所懸命頑張るのである。
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