とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 14
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浄化能力が全く効かない敵。いずれ現れるだろうと思われていたものが、ついに出たらしい。
聞くところによると、相手は歴史修正主義者も討伐しているとのこと。
守時の一人が命からがら現代に帰還し、情報をもたらした。
戦闘特化している審神者が、刀剣ごと重傷で現れるなど、政府も予想だにしていなかった。
そこで、戦闘能力が比較的高い審神者に、新たな敵の調査が命じられた。私のところにも、それは来た。

『今回の任務はあくまでも調査なので、討伐できなくてもお咎めはありません。
最も強い一軍に私が同行して、全員で様子を伺いましょう』

「あの主様!政府の命令に、従っても大丈夫なのですか?」

コタの疑問は尤もである。政府にとって、既に私は脅威認定されているはずだ。しかし今はまだ使う。
間引いて来た審神者の数が多く、味方が少なすぎるということだろうか。はたまたまた別の何か、か……。

『大丈夫かと聞かれたら、はっきりした答えは返せない。私から言えるのは、自分の命を最優先に、かな』

「敵は、正体不明の新たな敵だけでなく、政府も、ということか」

『政府の方は、明確に武力に訴えてきた時だけ、反撃してください。それ以外は、私が策を練ります』

「何か手を打っているのか?」

『まだまだですけど、ね』

政府のやり口が気に入らない審神者というのは多い。実情を知らずとも、自身への仕打ちだけでそう思うほどに。
私はそこを利用してやろうと考えた。但し迂闊な行動は、こんのすけの監視の目に引っかかる。
事は秘密裏に、水面下で、ひっそりと行われていた。





時を遡及した先で目撃したのは、有り得ない光景だった。
向き合ってこそいるものの、交戦しなかった様子で破壊された12本の刀剣だったものと、ボロボロになりながら結界で身を守る審神者と、歴史修正主義者と思しき無残な死体がそこにはあった。

『大丈夫ですか!?』

「あんたは……」

『えっと……』

「……日高千穂?」

『え、はい』

「和葉から聞いている。私は安土桃山守時だ。折れた刀剣は、付喪神が宿っていない私の得物だ。安心しろ」

結界を解き、触媒に用いていたのであろう血の流れる掌に布を当てた。
曰く、未確認の敵と歴史修正主義者が交戦し、それを観察していたところ、戦い終えた敵がそのまま守時と戦いを始めたらしい。

「敵の話は聞いていたが、油断した。近侍も本丸に残してきたのは……いや、壊されるよりかは良かったか……」

『…………』

「注意しておくことだ。いくらあんたが強くても、あれの強さは規格外。
歴史修正主義者など、赤子のように思えるほどに」

審神者は足早に去っていった。その赤い瞳に、目を奪われると同時に、恐怖のようなものを感じた。





霊の敵に遭遇するのは難しい話ではなかった。こんのすけの気配感知はあてになる。
強大な敵が迫っている、と言われた直後、――それは来た。
緑でも、紫でも、赤でもない、妖しい青の光を一閃させたそれは――検非違使と名乗った。
審神者の眼で情報を確認すれば、通常の甲乙丙表記ではなく、放免とされていた。
簡潔に言えば、穢れ事・汚れ仕事を行っても罪に問われない、昔の下っ端公務員だろうか。

「最近はやたらと遡及軍が多いものだ。貴様を捕らえ、尋問に掛けさせてもらう」

『交渉の余地なしですか……』

先ほどの一閃で、一軍は全員、重傷に追い込まれた。軟な育成はしていない。あちらが、強すぎた。

『私たちはただ、現代を守りたいだけです。同胞の手により歴史修正が行われるのを、阻止しているだけ』

「それはそちらの都合であって、我々は未来からの侵入者を根絶やしにする義務がある」

『はっ、よく言う。お前たちの上司の末裔が、時代遡及を促しているのに、とんだ茶番だな。繁栄を捨てたか』

「…………」

『そして……お前達には大義名分があれば良いだけの、殺人集団だろうが、盆暗ども』

「きっ、さま――!!」 「ふっ、はははははは――!!小娘が何を言うかと思えば……」

検非違使の刀が構えられ、全てが私に向けられた。
刀剣たちは立ち上がろうとするが、意識を保つのがやっとであるはずなのだから、戦力に期待したりしない。

『私は、代わりのいる審神者。
無駄に刀剣たちと親しくなって、強くなった、現代の政府にとって目障りでしかないもの。
今更何をしても変わらない、という点では、貴方方と同族なのかもしれない』

「命乞いは聞かん。どうするも我々次第だ」

『話を聞け。盆暗の意味合いに馬鹿を追加したいか』

「さっきから偉そうに――!!」 「まあ良い。辞世の言葉として聞いてやろうじゃないか」

『……それでも私は、私を信じる刀剣と人々のために、戦うことを決めた。愚かでも良い。
そこには、私の誇りがある。お前達みたいな、自己の快楽のために平気で人を殺せるものとは、そこが違う!!』

剣と札が抜かれた。先に閃いたのは――。
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