とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 13
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「光忠に宿った穢れが弱かったのは、主が真に純潔だったおかげです。
そうでなければ、主は即座に殺されていたでしょう。
純潔でありながらの不純であれば、あの時に純潔は散ったはずです」

『わー……初めて交際歴が無かったことが役立った……。……ん?穢れに憑かれたのに、理性ってあるもの?』

「僕らは元々付喪神“刀剣男士”として召喚されているから、少しは不浄への耐性がある。
もし自らに不浄が溜まり、主に害をなそうとした場合、意地でも浄化させようという気概くらいは保てるよ」

「同時にそれ以外の理性は崩壊しているので、本能や欲望が先行します。
光忠の場合、浄化のために主に触れることと、元来持ち合わせていた主に触れたいという欲が重なり、不貞を働いた、ということでしょうね」

『……元来、持ち合わせて……?』

「……なんで言っちゃうかなあ……」

ばつが悪そうに、目線を逸らされる。断っておくが、私は鈍感ではない。
気付きたくないから、気付かないふりをしているだけだ。示される好意に、応える術など持ち合わせていない。

『私にどうしろと……』

「君の負担にはなりたくないから、応えなくていい。きっと、他の奴らも同じさ。
せめて事が片付くまでは、ただの主従であり続けるよ」

彼らの好意は純粋に嬉しい。今まで女性として認識されることは少なかったから、同じだけ気恥ずかしさもある。
だからこの言葉は有難かった。私だって、好意を無下にはしたくない。彼らだって、蔑ろにされたくない。
今は落ち着いて物事を考えられるような状況でないのは明らかだ。お互いに、冷静でいなければならない。

『……早期決着を。そのためにも、私が審神者になった理由……私の中の何かを明かさないと……』

あれは現状において、切り札とも呼べる力であることに間違いはない。であれば、早くものにしておきたい。
私は告げられた謎の言葉について聞いた。

『“魂のゆりかご”って、ご存知ですか?』

「っ、それをどこで?!」

『一件の後、寝ている時、女性に言われました』

「女性?特徴を覚えていますか?」

『何せ夢なので、おぼろげで殆ど……。でも、昔霊が見えていた原因であり、審神者の力の原因でもある、と……』

「……全てではありませんが、謎がかなり解けましたね」

「そうだね。まさかよりによって僕たちの主が……」

魂のゆりかご。それだけで2人が瞠目し、納得の言ったような空気を醸し出した。
私にもちゃんと説明してほしい。
そう言えば、太郎さんが全員の下に式神を放ち、話を聞けるようにしてほしいと申し出てきた。
準備が整うと、太郎さんは口を開いた。――神職が神を祀り、人々が信仰する。
それにより神は存在を定着させることができるが、神とて力を使えば休まねばならない。
その休む方法が、人の身に潜むこと。宿主の生命力などを少し分けてもらい、その身を養う。
返礼に神から宿主へ、力を少しだけ貸し与えられる。
そうでなくとも、宿主に運気が回るように、また潜在能力を開花させるような働きがあるそうだ。
その事象、また宿主のことを、“魂のゆりかご”と表現するらしい。

『じゃあ、その女性は神様ってことですか?』

「ええ。誰とまでは特定できませんが、高位の神であるはずです」

「その神が、視力を代償に、視えてしまう目を抑え、少しずつ審神者に必要な力を養わせた」

「主は霊感を自覚されていたようですから、元々審神者だったのかもしれません」

『でも私は後天的な審神者だって、皆もそうだって言っていたじゃないですか』

「覚醒していた審神者の能力を、女神が一度封じた。それが、後天的だと判断を誤った理由だ」

「そして悪夢というのは、内に秘められた力と女神を感じ取った、本能的な恐怖でしょう。
これで全ての辻褄が合います。その女神が何者であるかさえ解れば、能力の育て方が解るのですが」

生憎、言葉を交わしてすぐに退散してしまったのだから、何も解らない。
女性であることだけが、記憶にある視覚情報だ。聴覚情報はほぼ全て出た。
残りの情報と言えば直感くらいのものだが、果たして役立つかどうか……。
だが皆が私を、直感的に判断している、と表現するのだから、たまには自分を信じてみようと、発言した。

『……優しそうで、何となく包容力のある人だなと、感じました。まるで母親みたいな……』

私の母親とはまた違う。だが、母のようだと思えた。そしてもう一つ。

『魂のゆりかごのことだとは思いますけど、“魂を借りた”とも……』

「!充分な情報です」

役には立ったらしい。私にはまるで解らないが、何らかのヒントにはなれた。
すると光忠さんが解説を入れてくれた。

「宿主の条件が違うように、宿る部位も違う。魂を借りた、というのは、魂に宿っていたという意味なんだ」

『じゃあ、女神の特定が……?』

「絞るのが限界です。ですが、かなり前進しました。貴女の直感は、やはり助かります」

撫でられて抵抗しようとしたが、先の件を考え、大人しくすることにしたのは秘密である。
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