とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 12
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穢れ、または異形。審神者たちの敵は歴史修正主義者だが、それらが使役するモノのことをそう呼ぶ。
成りたての審神者はそう教わる。しかし経験を積んだ審神者は、より穢れを感じるようになる。
異形に限らず、戦場そのものから。その時代その地で死んだ人々の無念や怨嗟が、穢れという概念になり留まる。
審神者はそういうものを浄化する力を持ち合わせる。元から持ち合わせている力ではない。
政府に審神者として認められることで、審神者には国の守護者という概念が付与される。
そこから浄化という、絶対的な特殊能力行使の確約が発生するといわけだ。
浄化の力は、戦場にいるだけで発揮されるものだが、異形に対してはそういうわけではない。
異形は救えない。溜まり過ぎた強大な穢れは、守時であっても払えない。つまり、殺すしかないのだ。

『それじゃ、何の解決にもならない。延々とイタチごっこ』

「ですがそれが世の摂理なのです」

『納得してやるもんか。私は崇高な願いを語っているんじゃない。極めて現実的な話をしている』

こんのすけも政府の端くれ。だから思いの丈をぶつけた。
政府管轄の審神者は、穢れの果てである異形を、救えないんじゃなく、救わないんじゃないかと。
最初は考える余裕もなく、上から言われるままに粛々と倒していた。
だがある程度の余裕ができて、政府のやり方に疑問を抱いた。
生産性が見いだせない。実に非効率的。古く凝り固まった思考。
定例報告会の時でもそうだった。核心を突くとどもり、革新的な事を言えば反論する。
勘の良いものであれば、絶対に気付くはずだ。
何か、知られては政府に不都合且つ、根幹を揺るがすような事実があるのだと。
だから私はそれを知ってやろうと思った。政府が仕えるに値するか、見極めなければ気が済まなかった。

「もう一度だけ言います。千穂殿、異形は殺す他ないのです」

『だったらその狐の皮を脱いでから言え。お前は狐じゃないだろうが』

「!?」

『万人を救うなんて夢は見ていない。だが不毛な争いは避けるべき。
子供が解っていて、大人である政府が解らない道理が、あるわけない』

だからこそ、これ以上の論争も無駄である。立ち去ろうとしたところ、回り込まれた。
秘密を言う気になったわけではないようだ。感じ取れるのは、強烈な敵意。

『……秘密は弱み。隠すならもっと徹底すべきだった。だけどもう遅い。私は、秘密を暴く。
それまでは、仕えておくことにする。……まあ、従うかは別問題だけど』

ぴしゃりと。ふすまを一気に閉めた。政府はまだ、私を異端とみなしても、敵という認識はしないだろう。
審神者は貴重な戦力だ。みすみす見逃すはずがない。
それこそぽっと出に何ができるとでも思っているかもしれない。だが、確実に自分の首を絞める行為だ。
残された時間は、限られた時間に切り替わった。





「……まずい。ぽっと出があそこまでの力を持つなど、予定にはなかった」
《彼女を侮った政府が悪い。でも、このまま成り行きを見守るようでは私も見限られる》
「だったら手を打っておこう。秘密を掴むなら、相応に代償が必要だという事……身を以て解らせる」
《あまり過激なことはしないで。彼女は好かれている。
いきなり審神者を辞める事態になれば、それこそ世界が揺らぐ》
「ふん、知ったことか」
そうして辺りを漂う黒い靄は、静かに消え去った。
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