とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 11
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「主様!いい加減、可愛い服を着てくれたっていいじゃない!!」

『またその話……』

一体いつ、同じ会話をしただろうか。
あの時は無理矢理ランちゃんの服を着せられたわけだが、今回は余計に分が悪かった。
じりじりと詰め寄ってくるのは、ランちゃんと姐さんに加え、清くんと光忠さん。
武力的にもバランスの良いメンバーだ。そして笑顔である。怖すぎる!!

『……逃げるが勝ちだ!!』

煙幕を使い、廊下を全力で書ける。風の援護付きだ。
和装で走るのは流石に無理があるが、捕まればこの世の終わりである。

「待ってよー、主ー!」

『(!?忘れてた、清くんは偵察の初期値が高いんだ!!煙幕じゃ駄目か!)』

すぐさま青い札で樹を用いた拘束をする。
(鍛えているだけあって、)上手くかわしたようだが、それでも時間稼ぎはできた。
距離を広げ、こういう時の逃げ場であるヤヒロさんの部屋に駆け込もうとした。

「はーい、残念でした」

『な、なんで……』

「オレは近侍だぞ?主の動向は把握していて当然だろ」

『じゃなくて!どうして和泉さんまで加担しているんですか!?』

小脇に挟むように抱えられてしまい、足をばたつかせる程度の抵抗しかできなくなった。

「お、いたいた!よくやった、和泉守!」

「おー。で、どうすんだ?放っておけば抵抗するだろうよ」

「じゃあ僕に任せて!主様、悪いけど抵抗は無駄だよ。いっつも助けてもらっているであろう山姥切さんには――」

ヤヒロさんの部屋のふすまが勢い良く開けられた。

「鶴さんに協力してもらって、ぐるぐる巻きにさせてもらっておいたから!」

「悪いな、千穂。俺も君の着飾った姿は見たいんだ」

『ひ、卑怯者おおおお!!』

私とヤヒロさんだけが、ぐったり、そしてしっかり捕まってしまった。





そして現在、前の学校の制服に着替えさせられ、ウインドウショッピングをしている。
財布は光忠さんが握っているので、無駄遣いされる心配はないのだが、私のテンションはただただ下がっている。
着飾ることは嫌だが、着飾られるのはもっと嫌である。女性らしいことはからっきし。
隙をついて逃走しようとするが、両脇と後ろを和泉さん、カクさん、光忠さんに囲まれているため、さっきからずっとどこかの包囲網に引っかかっていた。

「千穂ちゃん。たまには気分転換ってことで、こういうのもありなんじゃないかな?」

爽やかにそう言う光忠さんだが、そんな言葉に絆されるような私ではない。
刀剣男士たちと付き合ってきて、私の実力が向上したのは勿論だが、同じだけ性格が悪く、また図太くなったような気がする。余計に女性らしさから離れていっている。嬉しくない。

「主ー、この店に入るよー!」

「さあ、腹を括れ!!」

『の、呪ってやる……!!』





「次はこれね!」 「こっちも可愛くない?」 「これなら正装としても使えるよね」
「たまには嫌いな色を纏うのもいいんじゃないか?」 「オレは荷物持ちかよ!?」

最初から試着室に押し込まれ、外の喧騒を聞きながら徐々にナイーヴになる。
先ほどから投げ込まれるスカートやキャミソール。着なければ帰ることができない。
しかしここで妥協すれば、私のプライドが音を立てて崩壊する。人生最大の分岐点に立たされていた。

「あーるじっ!」

体育座りで縮こまっていたが、声のする方に視線を上げる。
……試着室上部の空き部分から顔をのぞかせるカクさん。……犯罪だ、覗きである。

『〜〜〜〜〜っ!!!?』

「その反応は傷つくな。別に君の素肌を見ているわけではないだろう」

「おーい、鶴丸の爺さん。そのへんにしときな!札でも使われたらたまったもんじゃねーぞ」

「ここからがお楽しみなんじゃねーか。……ま、主の可愛い反応を拝めたから良しとするかな」

……別の意味で身の危険を感じたため、プライドを捨てることを選択した。もはやなるようになれ。





着せられた服の数は数えていない。
覚えている服の例は、フレアだったり短めだったりな行燈袴や余所行きの浴衣、防寒用のコートに制服調のワンピースなど。地味なパンツスタイルはひとつしかない。
タンスの肥やしにしようものなら、また彼らに襲撃されるわけだから、いずれ着なければならない。

「……あのね主。俺たちが今日、主を連れだしたのはさ。主に仕事を忘れてほしかったからなんだよ」

いつの間にか隣に並んでいた清くんが話し出した。
最近の私はどうも仕事三昧で、休んでいるのだろうけど、それ以上に疲れているようだった。
取れているのは肉体の疲労だけで、気疲れは全くという程なのではないかと。

「だから、嫌だろうけど服を買いに来たってわけ。強引だけど、気晴らしには良かったでしょ?
あと、いつもと違う服を着て、忘れてほしいってのもある」

『……そっか』

「……ごめんなさい」

『やだな、謝らないでよ。……うん、たまにはこういうのも悪くないのかもね』

ぱっと、雰囲気が明るくなったような気がした。しかしそれはそれ。
本丸では相変わらず巫女服であったため、襲撃が治まることはなかった。
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