とうらぶ -蓬日和-
□蓬日和 10
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式神の能力は四段階。私は三段階まで使うことができる。第一が伝令。審神者であれば使いこなせるものだ。
第二に手伝い。物の運搬のような、簡単な雑務であれば対処できる。第三が擬態。急激に難易度が上がる。
精度が高いと、双方向の会話や戦闘など、自立して行える。そして最後が傷着せである。
自分が受けるべきものを式神に着せる、というのが正しい使い方。
だが負債を無かったことにするなど、どう考えても都合の良すぎる話である。
苦労して第三段階をものにした私が、容易く扱える芸当ではない。
現に今も失敗し、あちこちに激痛が走っている。失敗すると、術者本人に返ってくるのが特徴だ。
『あー、もう!痛い!』
「我慢してください。術が上達しているのは確かなんですから」
サキちゃんが両腕、両足の負傷具合を確認し、適切な処置を施してくれる。
女性への気配りが得意である彼に、更に薬研くんが仕込んだ医療の知識が加わることで、私が無茶をした時の抑えの役が任されたとのこと。
傷着せを試している事実は全員が知っているが、いつ試しているかはサキちゃんしか知らないのだ。
『でも皆、気を遣って負傷していないだけなんじゃ……』
「今、大倶利伽羅さんに一人で無茶をさせているでしょう。鏡にも映っているじゃないですか」
おぐりさんに単騎で夜戦、しかも飛び道具が許可された戦地を駆け回らせ、様子を確認している。
本来なら重傷になっている程だというのに、刀装が全て剥がれただけで、現在ボス戦だ。
「以前は全身酷い出血でしたから、充分な進歩だと思います」
最初の頃は死ぬんじゃないかというくらいで、ミコトさんが何度来たことか。
流石に政府も慌てふためいたようで、2回目以降は医療スタッフまでやって来た。
数十回の訓練の後、現在の両腕両足に中傷くらいまでで抑えられるようになった。
「……毎回思うのですが、主君の顔(かんばせ)には傷がつかないのですね」
『あ。よく考えてみれば』
念のために顔を触ってみるが、やはり傷はない。顔に傷が残らないことは良いことだ。
しかしこのような都合の良いことが起きるものなのか。
「もしかしたら、主君が女性であるという証明なのかもしれませんね。
自信を持つべきだ、というお告げだと思いましょう」
『複雑だなあ……』
「主君。大倶利伽羅さんが勝利を収められたようですよ」
『!おぐりさん、お疲れ様です。負傷されていませんか?』
「あんたが傷着せ使ってるから、刀装が全滅しただけだ。そっちは――」
何度でも繰り返しの鍛錬。数は既に3桁を超えた。
小さな傷であっても、連続して追い続ければ当然肉体への負荷は大きい。
右腕に一つ残る――と言ってもあまり目立たない――古傷が急に疼いた。
右腕を切断されたかのような激痛に、意識が弾け飛びそうになる。僅かな力を振り絞り、式神を放つ。
その間数秒で、薬研くんとサキちゃんが駆けつけてくれた。
「大将聞こえるか?無理はしなくていい。解るなら何か合図をしてくれ」
サキちゃんが握ってくれている左手を、緩く握り返せば、確認した薬研くんが私を布団まで移動させた。
痛む腕と、私の顔を確認しては、ぶつぶつと何かを確認するように呟く。
「……恐らくは幻肢痛のようなものだ。実際にありもしない負傷を、急に痛覚が感じさせる現象でな。
傷着せの影響だろう。そうじゃなくても霊力の消耗だってある。大人しく寝てろ」
「主君、何かご入用のものがあれば、仰ってくださいね。お傍に控えていますから」
「三日月の旦那。今日は負傷してるか?」
「してないが……まあ、破壊寸前には陥っているであろうな。本来なら」
鏡を通し、薬研くんとミカゲさんが会話をする。どうも体に傷がつくことは無くなったようだ。
痛覚の遮断まではこなせないが、ここまでくれば、傷着せは殆ど完成である。
「……さて、解った通り、傷着せはかなり進歩したわけだが。
こうも大将に倒れられちゃあ、別の意味で俺たちが持たない。今日明日は休むこった」
『私これでももうすぐ成人……』
「見てくれが子供とはいえ、大将なんてまだまだ俺たちより若いんだ。年長者の言葉は大事にしろよ?」
頭を撫でられたままで言われる。反論しても言いくるめられ、その気が失せた。
2日間のしっかりとした休養のおかげで疲労は回復。痛みもなくなっていた。
訓練を再開すると、痛みも前よりは弱いものとなっており、更に約10日後、感じなくなった。
【その後】
『今日も元気に資材集め〜』
「……傷着せは使わないのか?」
『サキちゃんに止められたんですよ』
「当然です。いざという時までは保存です。霊力負担は馬鹿にならないんですから」
『なので、私の鍛錬中に鍛えた己の力だけで頑張ってきてください。刀装剥がすのも許しません』
「鍛練中は刀装に気を回せませんでしたからね。刀装も資材もカツカツです」
『和泉さんがなあ……』 「無駄遣いされるからですね……」
「な、なんだよ……」 じいいいいい
前田藤四郎、相棒になったかもしれない。