とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 09
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「ここって、結界があったから、作物がすぐに育っていたんだよな」

レオが畑を見ながら言ってきた。政府の結界の特性のひとつ、時間軸の曖昧化。
これは時代を超えるために本丸内に設置された“時の門”を守るため、その効果を維持するためだ。
思わぬ副産物として、結界内は四季が存在しない。その恩恵を受け、季節問わず作物を生産できる。
更にどういうわけなのか、作物の成長速度も異常に速いのだ。
恐らく非対応の環境にさらされて、作物そのものが強くあろうとした結果だろうと推測する。

『今の急造の結界だと、作物にとっても苦しい。
……いい加減、政府の手を借りつつ自分の結界をちゃんと作るべきか』

「大丈夫なわけ?政府の手って……」

手段だけ借りる分には大丈夫だろう。何せ、こちらには本物の神様がついている。
結果だけを求めればまた同じ轍を踏むことになるのだろうが、今度の結界は私が造る。構造計画から、作成まで。
勿論簡単じゃない。労力も頭も必要だし、何よりも、維持に必要な霊力が跳ね上がる。
改善策が思いつくわけでもない。取り敢えず進められるところは進める。今は本丸の構造を改めて把握している。

「……お嬢」

『何?』

「お嬢が考えてること、解るよ。ここの結界を、前と遜色無く、より丈夫にしたいんだよな」

『うん。まあ万策尽きた感じなんだけど』

「まだだよ」

まだ、とは。どういう意味なのか問おうと、レオを見返す。

「難しいことは解らない。でも、結界に必要な霊力は、俺たちの方が十全に提供できる」

『……え、そうなんだ?』

「……なんだ。また頼ってくれないのかと思った……」

『え、え?ごめん?知らなかったんだって』

頭を抱え、悩ましげな顔のレオだが、少し考えて私に向き直った。

「あのな。神社は神様を祀っているだろ?
人間が信仰して、ちゃんとした手入れをしていれば、あんな大規模の聖域でも造ることができる。
結界は、人間の霊力ではなく、神により維持されていることが多い。そして神を維持するのは、人々の信仰だ。
本丸の場合、お嬢が俺たちひとりひとりを気にかけ続けてくれれば、それが可能だ」

『うん……?』

「……上手く、説明したつもりだったんだけどな」

『いや、理解はできたけど……本丸の場合の意味が解らなくて……』

神様の数に対して、私一人の信仰でもつものなのだろうか?
その辺が理解できなかっただけで、それの理解を捨て置けば、霊力負担に関する不安はなくなる。

「うーん、保てることは解るんだけど、説明するとなると、俺は苦手だから。
じっちゃんや御神体なら、説明とか得意なのかもしれない」

『じゃ、後で聞くことにする』

「後で?」

『結界の作成と維持が簡単になっても、結界内の時間の歪みの処理はできていない。
生憎、四季が無くなる原理までは私にも理解が及ばずじまいでね』

「あー……、それは俺も解んない」

空気の流れや土の香りが違うことは確かだ。それくらいは感じられるのだが、肝心なことはさっぱりである。

「別に同じである必要は無いと思う」

後ろから急に声を掛けられた。振り返るとミネくんがおり、その手には植物に関する本が握られていた。

「四季が移ろいゆくもので、日本の象徴たり得るなら、それで良いと思う」

『でも四季があると、快適な暮らしは難しくなるよ?』

「俺たちが適応すればいい話だ。普通の人間は、そうしているだろう」

『うーん……』

食に必要な作物の成長は、どうあっても頭を悩ませる種だ。しかし、ミネくんの言葉が引っかかっていた。
同じである必要は無い。……そして閃いたのである。四季無しでも何とかなる方法を。
確証はないが、それも結界維持の霊力の件と共に聞けば良い。

『ありがとう、2人とも!』

「?よく解らないが、役立てたのなら良かった」

「お嬢、はしゃぎ過ぎて転ぶなよー……って、言ってるそばから!!」

ほんの少しの段差に躓いた。一つのことに集中しすぎる悪い癖が、こんな所で出てしまった。

「おや、今日も主は元気なようだ」

「じっちゃんよくやった!」

体勢を崩したところを、ミカゲさんが支えてくれた。渡りに船とはこのことか。支える腕をしっかり掴んだ。

「はは、主殿。流石にそう握ってくれるな。老体には少しばかりきついぞ」

『レオは太郎さん、ミネくんはカクさん探して鍛練場に連れて来て!』

「承知した」 「行ってくるぜ!」

『さあさ、ミカゲさん!貴方も行きますよ』

「うむ、今日の主は非常に元気だ」

頭を悩ませてばかりはいられない。方向性が決まったのなら、まずは体力をつけねばならないのだ。
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