とうらぶ -蓬日和-
□蓬日和 07
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「主、少し宜しいですか?」
珍しく太郎太刀(太郎さん)が私の部屋を訪ねてきた。本当に珍しい事なのだ。
祀られていたせいか、そう欲を示すこともなく、圧倒的な強さで敵を斬り伏せてしまうため、傷ひとつ追わない。
手がかからなさすぎる。正直寂しいと感じることもある。
『どうかされました?』
「いえ……。ただ、主を知りたいと思いまして」
『あ』
書き損じた。この手の書類は一度集中力を欠いてしまうと気が乗らないものだ。
いきなりの太郎さんの発言に驚かされてしまった。
「すみません、言葉が足りませんでしたね」
そう言って、太郎さんはとある日の刀剣たちの話を始めた。
最初は、私が如何にすれば女の子として振る舞うようになるのかという、はっきり言って下世話な話に始まり、次第に誰が主をより理解できているかにまで発展したそうだ。
そこで出たお題の答え合わせを誰がするかということで再び揉め、煩わしかったため太郎さんが自ら名乗りを上げ、いつもより落ち着いている今日を選んで訪ねてきた、ということだった。
「とはいえ、私も改めて貴女を知るのは良い機会だと思い、名乗りを上げたのですが」
『そうですか……。まあ、皆さんに私を知ってもらわないと、信頼も何もありませんね。
良いですよ、お答えします』
「有難うございます。それでは百題ありますので」
『ひゃ……!?』
「まず一題目。主の誕生日をお教えください」
『あ、そっか。そういうことはお話ししませんね。2月28日……如月の二十八日(はつかあまりようか)……ですかね』
「(ほう、俺を呼び覚ました時がそのくらいか。さしずめ、天から舞い降りた贈り物と言ったところか)」
『(あ、ミカゲさんが来た頃だなあ。天からの贈り物みたい?)』
「続いて、主の年齢は……女人に聞くにはぶしつけな質問ですね」
『18(とおあまりやつ)です。外見及び性格にそぐわないと、よく言われます』
「(あるじさま、とってもやさしい。ははうえって、あんなかんじなんだろうなあ)」
『どこにいてもお母さん呼ばわりなんですよ。ある意味欠点です』
「主の好きな物は何でしょう?」
『おしゃべりです。いつも仕事をしていると、些細なことが楽しくて』
「(じゃあ様子を見て話しかけても良いのかな?)」
『仕事の邪魔さえされなければ、もっと皆さんと仲良くなりたいです』
「では嫌いなものは?」
『えっと……嫌いではないですけど、女性らしい振る舞いだけは……』
「(恥じらう姿はとても愛らしいのですが……)」
『似合っている気がしないんですよ。それこそ、頼れるお母さんという認識のせいですかね……』
「主は確かに頼れる女性だとは思いますが、たまに見せられる仕草は女性そのものですよ」
『!?!?』
「趣味や特技がございましたら、お答えください」
『じゃあ特技の方で、勉強を上げておきます』
「案外、お早い回答でしたね」
『学ぶことは好きです。それに、それくらいしか私に能は無いですからね』
「そんなことはないと思いますよ。普通の人間に、私たちを呼び覚ますことはできませんからね」
『うーん……?』
「では主は頭脳派ということで宜しいのでしょうか?」
『どちらかというとそうですね。
故郷の友人に、万能型とは言われてはいましたが、それならもう少し女性的な方面にも伸びてほしかったので……』
「(ん?主、気にはしているんだ?前は無関心みたいなこと言ってたのに)」
『でも考えるのが嫌になって、放り出しました』
「(そんなあ!!)」
「少し趣向を変えまして……、主の眼鏡は伊達ですか、本物ですか?」
『……本物、なんですけど……』
「?何か、あるのですか?」
『最近、殆ど見えていないんです、この眼鏡』
「直されないのですか?」
『直す暇がないのと、無駄だからです』
「無駄、ですか」
『直したそばから、視力が悪化するんです。医学的にも不可解な事だそうで』
「医療が及ばない謎の病気……」
『あの、死にはしませんからね?』
「いえ、少し思うことがあっただけですので」
『?』
「気を取り直しまして、次です。お好きな色は何色で?」
『眼鏡と同じ、浅葱色です!』
「新選組の羽織と同色ですね」
『私の歴史好きの原点は、新選組にあるからですね。これは拘っています。
あ、系統で言えば、青や紫……そう!一期さんの髪やナオくんミネくんの目の色が、綺麗で好きです』
「(!)」
『皆さんの髪も瞳も綺麗ですけど、特にナオくんミネくんは群を抜いています。……目を合わせられないけど』
「(……それは、やだ)」
「因みに、お嫌いな色はあるんですか?」
『先に断っておきたいんですけど、赤じゃないですから』
「?」
『血色が嫌です。昔かなりの出血を見たことがあって、トラウマなんですよ……』
「戦場では必ず血が流れますよ。解っておいでですか」
『嫌いな色ごときで止まるほど、私も馬鹿じゃないですよ。それで心は折れませんから』
「(決して無理はされませんよう……)」
「丁度節目の十問目にあたります。主はどの季節がお好きですか?」
『……夏以外です』