とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 06
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「主さんって、妙なところで抜けてますよね」

鍛冶場にて、鍛刀レシピを確認していると、近くを立ち寄ったらしく、堀川くんが顔を出した。
そしていきなりの毒舌である。
和泉さん曰く、堀川くんは私を嫌っているわけではないのだが、近侍が和泉さんであることに不満があるらしい。
嫉妬かと聞けばそうだ、と返された。和泉さんを独り占めできない。もしかしたら傷つくかもしれない。
不安も相まっているのだろう。
私が和泉さんに可能な限りの自由を与えているのは、近侍の特権であると同時に、私なりの堀川くんへの気遣いなのだが。どういうわけか、彼はこうしてわざわざ私に関わってくるのである。

「なんでこうも珍しい刀ばかり当てて、打刀を出せないんですか」

『私も聞きたいよ……。昔からなんだよね』

「今日こそは何かを出してやろうって感じですか?」

『そうそう。だから今回はレオあたりに頼もうかと――』

「今回だけで良いんで、僕にもさせてもらえませんか?」

『……打刀狙いだから、手伝い札は使わないよ?』

「1時間半も待てない子供じゃないですよ」

レシピをひょいと奪い、刀匠に指示を出してしまう。
てきぱきとしたその姿は、確かに和泉さんの助手を名乗るだけある。
彼なりの矜持のようなものが、そこにはにじみ出ていた。兼さんや、土方さんに恥じぬ脇差でありたい。
彼のそんな心を踏みにじるようなことは、許すわけにはいかなかった。





元々堀川くんは私の刀ではなかった。転校して間もなかった頃の話である。
私の入ったクラスには、とても大人しい……悪く言うと暗い女の子がいた。
審神者の家系の子で、審神者としての才能以外は全くもって酷い結果を出す子だった。
そういう人が集団にいるわけだから、何が起きるかなんて、決まりきっている――いじめだ。
とある日の放課後、私は他の審神者に追いつくためにも、図書館で自習をして、更にいくつか本を借り、帰ろうとしていた。
人気のない廊下、そして階段で見てしまったのだ。罵声を浴びせられるそのクラスメイトを。
水に濡れたバケツが転がっていることから、そういうことがあったのだろうと推測する。
彼女は言い返すことさえもしない。調子に乗っているのか、囲む連中は更に加速する。
そして――突き飛ばした。階段から。

『ヤヒロ』

言うが先か――。ヤヒロさんは彼女を抱え、踊り場に着地。
何が起きたか解らない様子のいじめっ子に、私が声を掛けた。

『……馬鹿馬鹿しい』

「な、なんですって!?」 「ぽっと出の新入りのくせに、偉そうなのよ!!」

いじめっ子の特徴。上げ足を取れば集団で理由をつけて攻撃する。子供のすることである。

『あんたたちのやり取りは録音済み。なんなら、式神でさらに証人を増やそうか?』

ちょっと脅せば、顔を青くして逃げ出していった。
録音は事実だが、当時は式神を使いこなせていなかったため、これは賭けであった。

「あの……助けてくれて、有難う……」

『別に……。私も帰るに帰れなくて迷惑していただけ。……君も言い返すべきだよ』

「無理……。勉強も運動も、できないし……」

『決めつけ、諦め。可能性を自分で潰してどうするの。私は、いじめっ子も、あんたみたいな人も嫌いよ』

はっきり言う。陰口を叩く卑劣な人間も、嘘で塗り固められた人間も、自己解決する人間も。
私の嫌いなものは、眼中に入れない。だから、これが彼女と目を合わせる最後になるのだと思った。
――ところがだ。翌日から彼女は私の後ろをついて回るようになった。先日の件で、いじめっ子は寄ってこない。
虐め返されるのは覚悟していたが、これには拍子抜けだ。そして彼女の……所謂ストーカー行為は日に日に増した。
最初は後ろから見ているだけだったのが、前へ前へと……視界に入ろうと。

「千穂。たまには自習を休め。気付いているんだろう?」

『だって……』

「ああいうのは、あんたみたいにふり払わない奴に依存する。俺みたいなのを連れているから、尚更だな」

かなりぎりぎりまで追い詰められた私の思考は常にパンク状態。勉強も、やっているだけで頭に入ってはいない。
昼休み、大急ぎで彼女を振り切って、屋上へ来ていた。屋上まで来ることは、私も彼女も普通ない。
少なくとも今は、心穏やかでいれる――。

「っ誰だ!?」

「……すみません、僕の主が」

銘を堀川国広。聞くと、彼女の近侍をしているらしい。
彼は本丸でずっと私の話を聞かされており、様子を心配して、追って来たとのことだった。

「正直、根は深いです。簡単にはいかないでしょうが、僕も諦めずに説得してみますから……」

『本当にごめんなさい。私が中途半端なばっかりに、こんなこと……』

「気になさらないでください。悪いのは彼女です」

やけにきっぱりと言い放つ。それがどうしても気になって仕方が無かった。
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