とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 05
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我が本丸の新入隊員には、その秩序を守るための教育が施される。
詳しいことを話し出すと、それこそ講習そのものになってしまうので控えるとして。
やる気を維持させるためのシステムについて、紹介しようと思う。
とはいえどこでもやっているような、単純明快なものだ。

「あるじさま!おせんたくもの、もってきたよ」

今剣(イマヅくん)が綺麗に折りたたまれた軍服を持ってきてくれた。

『有難う。お洗濯してくれたのは次郎姐さんだけ?』

「えっと、みだれとうしろうもてつだってたとおもう」

『そっか。じゃあ、後で2人にここに来るよう、言ってくれる?そうしたら、後でまた1枚あげる』

「うん、わかったよ!」

イマヅくんに、“壱”と書かれた正方形の白い紙を渡す。これが工夫である。
お手伝いなどで得点を積み重ね、一定の点数がたまれば、主である私にお願いができるようになっている。
不正が起きることの無いよう、得点用紙は本人に直接手渡し。
渡した後は、ちゃんと別紙に積み重ねた点を計測してまとめている。
ご褒美は細かく定義していないが、公序良俗に反しないことが大前提である。
10点でハグなどの単純なふれあい。30点で私を自由に連れまわせる権利。50点で金銭的要求。
必要とあれば変更を加えるということで、話はついている。
大人よりも子供たちの方が得点を積み上げている事実に、まだまだ不完全さが伺えるが。

「主」

『安くん?どうかした?』

「えっと、聞きたいことがあって」

一先ず部屋に入ってもらい、相変わらず散らかっている書類を整理する。
あんまり汚くしていると、家事担当(薬研くんと光忠さん)に怒られてしまう。
しかし長らく散らかしていると、書類がごちゃごちゃして、上手くまとまらない。
すると大和守安定(安くん)はその様子を見て、手伝う、と言ってくれた。

『え、流石にそれは……。私がやらないといけないことだし……』

「話を聞いてもらう前に、日が暮れると思うんだけど?」

『う、お願いします……』

「良いよ。沖田くんもこういうの、苦手だったし」

彼は慣れているのか、てきぱきと書類をまとめ上げる。後ほど確認したが、間違いはなかった。

『ごめん、助かったよ』

「うん。で、質問なんだけど」

と言って、言葉が止まった。安くんにしては珍しく、下を向いて言葉を選んでいる様子。
これはこれで待っていたら日が暮れるんじゃなかろうか。

「千穂ちゃーん!」

「こら!はしたないよ!」

その沈黙を、ランちゃんと次郎姐さんが壊しに来た。

「あれ、安定?どうしたの?」

「アンタがしおらしいなんて、また珍しい。明日は嵐なんじゃないかい」

「……煩いな。僕だってそういう時はあるよ」

『……あの、ランちゃん、姐さん。良ければ、私の代わりに安くんの話を聞いてくれませんか?
女子相手じゃ難しい話かもしれませんし。あ、でも、女心を解ってないと答えられないとか』

「よっしゃ!姐さんが酒をお供に聞いてやろうじゃないか!」

『真面目に聞いてあげないなら、2点を0点にしますよ』

「お酒は抜きマース!」





「……で?アンタ、何を悩んでたわけ? アタシらに言えないなら、あの子に言うのも絶対無理だね」

「あんまり難しい顔してると、千穂ちゃんも気にやんじゃうよ」

「……この得点制度で、聞きたいことがあったんだ」

「ま、大方、あの子を喜ばせたいけど、得点が果たして使えるんだろうか……って?」

「はあ!?知ってたわけ?」

「伊達にアンタより長活きしてないよ。解るもんさ」

「喜ばせる、かあ……。そっか、30点を使えば、千穂ちゃんを拘束できるもんね」

「言い方。ま、アンタが悩んでることは、主も知ってるんだ。蔑ろにはしないって」

「千穂ちゃん、押しに弱いし!」

「……はあ」





『あれ、早かったね?』

「うん。まあね……」

まだ歯切れが悪そうだが、さっきよりも空気は軽い。少なくとも、言おうとする決心はついたのだろう。

「あの、さ……。得点を、使おうと思って」

『なんだ、そんなことだったんだ?えっと、安くんは……さっきの書類を手伝ってくれたのも含めて、30点だね。
何する?私を振り回すくらいなら大丈夫だよ』

「たぶん30点の方だと思うけど……、今から、昼寝をしてほしいんだ」

点数書類をばさあっと落とした。また整理しなおしである。いや、そんなことよりもだ。

『な、なんで?!安くんへのご褒美なんだけど?』

「だから、僕も隣で寝るし」

爆弾発言再び。何だろう。空気は軽いのに、安くん辺りから黒いものが見える気がする!
気付けば壁際まで追い詰められていた。

「ご褒美、だよね?」

『あわわわわ』

「……そう警戒しないでよ。お互い、疲れてるでしょ」

羽織を布団代わりにし、枕は私の左肩を代用。逃げられない。
安くんはどちらかというと、大人しい方だと思っていた。それがこういう本性を持っていたのだ。

『男性って、やっぱり解らない……』

やけになり、大人しく眠ることにした。次に起きた時、眼前でにやにやしていた姐さんの得点は減点しておいた。
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