とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 04
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区分上大学に通う年齢である私は、平日2日以上登校するという規則の学校に通っている。
幼稚園から大学院まで完備の超エスカレーター式で、基本的に秀才の集まり。しかしあらゆる情報は非公開。
妙な都市伝説が飛び回っているが、それはこの学校が実際は審神者の集まりであるせいだ。
審神者でも学校に通いたいという過去の発議により、政府直営のもとに創設されたらしい。
審神者は国の要であるため、学校防衛は軍という徹底ぶりだ。

『でも、審神者のことを公開しないのは、いささか非合理的だと思うんだけど』

「難しいことは解らないけど、主は秘密主義には欠陥があると思っているんだ?」

『秘密は弱点だからね。守られている間は良いのかもしれないけど、暴かれた時は……』

今まで見てきた中で、記憶しているニュースが思い浮かぶ。隠蔽、偽装、詐欺……。また発展した多くの事件。
取り上げられる問題とは、得てして秘密を元にしているのではなかろうか。
そう話せば、加州清光(清くん)は理解してくれた。

「主、教えるの上手だね。教育者とか、向いてるんじゃない?」

『向き不向きなら、たぶん向いてるとは思うけど、やりたいかどうかと言われると否定するね』

「なんで?」

『清くん、私に剣術教えてって言われて、簡単に教えられる?』

「あー……」

そういうことだよ、と帽子を整えつつ、鍛練場の扉を開ける。先客が私に気付き、頭を垂れた。

「お久しぶりです、日高さん」

『ご無沙汰しています』

当初の私の世話をしてくれた、名も知らぬあの男である。
入校許可証が胸ポケットから見えるようにしてあること以外、以前から何も変わっていない。

「本日はご足労いただき、誠にありがとうございます」

『やめてください。学校に通うのは学生の本分ですから』

「そう言っていただけると助かります」

『それで、ご用件は?本丸に来られないとなると、……警戒しているのでは?』

「申し訳ありません。その通りなのです」

相変わらず食えない男である。
困ったような笑顔を見せているが、この人は笑顔以外の表情が無いのかと疑問が残る。

『……大方、顔と名を守れなかったことに関してでしょう?
そして、それが許されるだけの実力があるか、試してこいという命令が出されたとか』

空気が、微かに揺らいだ。男の表情は変わらないが、間違いなくそれは――

『(殺気、か)』

横目で入り口付近に待機したままの清くんを見れば、彼の表情もまた険しいものになっていた。
その手はいつでも剣を抜けるよう、構えられている。

「……察しが良すぎますよ。前から思っていましたが」

『身の危険を感知できなくて、審神者なんかやっていられませんよ』

瞬間、飛んできた鞘を左手で弾く。本日帯刀している大和守安定を即時抜刀し、追撃を峰で受け止める。

『殺す気ですかっ……』

「手加減をしても手を抜くな、という命令でしてね。何なら、加州清光を加勢に加えられても結構です。
貴女は審神者だ。それが許される」

『お断りです。私への罰なら、剣と術……己の力だけで超えてみせる!』

「主!?」

『だから手出しは無用だ!お前の主がどういう人間か、その目に焼き付けなさい!!』

「勇ましいお嬢さんだ」

鍔迫り合いは力で押し負ける。その勢い殺さず後ろに飛び退き、帽子のつばを後ろへと追いやる。
呪符はまだまだ使いこなせない。どの札も、詠唱無しで投げ、一時的な足止めをするくらいしかできない。
だが危機的状況に陥ってはこの限りではない。人とはそういうものだ。

『人の力だって、いつかきっと神様にも届く――!!』

札が光る。単体で攻撃するには乏しいけれど、強化には充分だ。刀に札を当て、詠じる。

『緑符、急々如律令!!』

刀が風を纏う。突風を起こし、後ろへ流して、加速。突破の火力へと、変える――!!

「……勝負あり。これ以上の戦いは無意味だよ。……あんたも、解ってるよね?」

清くんが私と男の間に身を滑り込ませ、刀を男に向ける。男の刀は弾かれ、遠くに転がっていた。

「……お見事です。ご無礼、お許しください」

男は跪いて、頭を下げた。……本当にこの人は何がしたいんだろう。まるで操り人形だ。

「上にはありのままを伝え、貴女を擁護させていただきます」

『……全くです。“窮鼠猫を噛む”という言葉を教えて差し上げてください』

「おや、随分と手厳しい」

「……良いの?」

『本当に嫌になったのなら、反旗を翻すだけ』

「肝に銘じておきましょう。……長居は無用ですね。私はこれで……」

『あ、待って』

逃げるように帰ろうとした手を掴んだ。聞きたいことは山ほどある。だが迂闊に聞けば身を滅ぼす。

『貴方、名前は?』

「え……伝えて、いませんでした、か?」

頷けば、男は顔を真っ赤にした。即座に片手で隠していたが。清くんはむすっとしている。

「……ミコト、と。お呼びください」

『……ミコトさん、ですね』

「……失礼します」

本当に逃げるように去ってしまった。清くんには「天然タラシ」とまで言われてしまう。
……私、そんな人間だっただろうか?
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