とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 03
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「主様、せっかく女の子なのに着飾らないとかつまらない!!」

「そうよ!素材は良いんだから!!」

今日も何一つ変わらない審神者業を……と思っていた矢先、後ろから垂衣を引っ張られ、顔隠しがなくなった。
何事かと思い振り向けば、乱藤四郎(ランちゃん)と次郎太刀(姐さん)が垂衣を掴んでにやにやしていた。
あっけなく顔がばれてしまった。
それが廊下だったので、急いで垂衣を取り返して被り、自室に連行して現在に至るわけである。

「なんで顔を隠してるの?前から思ってたけど」

『政府曰く、神聖さが欠如するとか……』

「言っている割には、外出時に面布をつけてないじゃない」

『面布していると、審神者だとすぐ判断されてしまうので。
まあカクさんの一件で、それでも良いから面布をしてやろうとも考えましたけど。
他の方々に、そのせいで被害が及ぶのは御免こうむりますから、やっぱり踏みとどまりました』

というのは建前だ。本当は政府の言うことなんて信じていない。
大変なことになる前に食い止められなかった政府の命令なんて、たかが知れている。
所詮付喪神だが、されど神。それを使役できる審神者は政府にとって、恐るべき存在。
結束でもして、反撃されようものなら……とでも考えているのではないだろうか。
あほらしいが、理には適っている話だ。というわけで、本音は政府へのご機嫌取り。

「悪い顔してるわね」

「いつもはっきりと表情を読めなかったから、なんか新鮮だなあ」

『くれぐれも口外しないでくださいね。ああでも、ヤヒロさんとカクさんはご存知ですから』

「口外はしないけど……、主様はそれで良いの?」

『良いの、って言われても……。元々、女の子らしいことには無頓着だったから、別に気にしないというか……』

「そっちは良いとしても、アンタ自身は、それが窮屈なんじゃないかって話」

『窮屈ですね』

きっぱりと言う。
ガイドのこんのすけは、政府から派遣された従僕。可愛らしく振る舞っているが、あれは絶対監視役だ。
監視が無ければ垂衣を取り外すわけでもない。言われたことは、不快であっても不愉快でないのなら従う。
そういう性分だから。自分で自分を追いやっているというのが実情である。

「……つまり、顔を隠したいって意図的に思える環境を作ってしまえば少しは楽なのか」

『はい?』

「ボク、替えの服持ってくるね!!」

『ま、待ちなさい!!嫌な予感しかしないんですが!!』

「ふっふっふ……大人しく着飾られろ!!」

身ぐるみをはがされてしまった。なんてこったい。





「主様〜!垂衣は被っていいから、皆にも見せようよ!!」

『お断りです!!』

「んじゃ、仕方ないね」

『う、わわわっ!』

ひょいと姐さんに担ぎ上げられた。
落ちないようにしがみつくのと、垂衣に気をつけるのと、何よりどうにか逃げ出す算段を考えるので頭はこんがらがっている。落とさないからしがみつかなくても大丈夫よー、と呑気に姐さんは言うが、気が気でない。
この2人はまだ良い。心が女子だから意図しないスカート姿を見られてもまだセーフだ。
だが完全な男性陣に見られるとなると話が別。
高く聳え立った逞しい系真面目女子のプライドという壁が壊されてしまう。カウントダウンの足音が聞こえる。

「垂衣を隔てても、主様が百面相(主に難しい顔)をしているのがよく解るなあ」

「ほんとほんと。小さい声で、うーとかあーとか唸ってるのよ」

『あああああああ……』

「うーん、嫌がっているのもそうだけど、もしかして、体勢が苦しいんじゃない?」

全くもってその通りだ。肩に俵の如く担がれていれば、バランスを取るのは大変。
おまけに固くしっかりした骨に、胴体を押し付けるわけだから、自分の骨と胃が悲鳴を上げる。

「じゃあ主。アンタに選択肢をあげるよ。1つ、このまま。2つ、横抱き。3つ、諦めて自分の足でついてくる。
4つ、隠している名前を教えるんなら、解放してあげる。さあ、どれにする?」

『4つ目は顔を知られた場合、どの道教えるんですけど……』

「じゃあ選択肢から除外で」

余計なことを口走ってしまう(良く言えば嘘をつけない)自分が憎いと思う。
数秒前の過去に戻って、頭を一発叩いてやりたい。

『……3つ目でお願いします』

「あら残念。アタシとしては、横抱きでも構わなかったのに」

『そう言うと思ったからですよ』

幼子のように高い高い状態から降ろされ、身だしなみを整える。……ふりをした。
忍ばせていた呪符を取り出し、床へと叩きつける。

「な!?はめられた!!」

「主様!?」

『神様出し抜けないで、主なんかやってられるか!!』

強い術は使えないため、一時凌ぎの煙幕で2人から距離を取る。
急いでヤヒロさんの部屋に駆け込み、助けを求めると、何となく察したヤヒロさんは上手く匿ってくれた。
それから数日間、この応酬が続いた。
気を利かせたヤヒロさんが、太郎太刀や一期一振、薬研藤四郎に報告したことで、漸く平穏が戻ったのである。だがたまに感じる視線と悪寒は、気のせいではないと思う。
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