とうらぶ -蓬日和-

□蓬日和 02
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最初の頃はつまずきながら、今では順調に、歴史修正主義者との戦いを繰り広げてきた。
しかし時代を遡るにつれ、敵も相応に強くなる。最近は苦戦を強いられている。
被害を受けるのは刀装までで食い止められているが、敵によってはその守りを突破してくるわけで。
第一部隊に託した式神と、本丸の自室にある鏡を通信媒体に、その様子を見ていた。

『……撤退してください』

「当然の采配だな」

あまりの刀装の消耗に、一時撤退を余儀なくされる。第一部隊もそれに不満はないらしく、刀を鞘に戻す。
ただ一人、大倶利伽羅(おぐりさん)を除いて。

『おぐりさん、下がってください。貴方は刀装を破って、攻撃されています』

「だからなんだ。こんなもの、軽傷でもない」

『刀装の補給をします。少し時間を戻り、そこで残党狩りをしつつ、能力向上を狙いましょう』

「断る。慣れ合うつもりは無い」

何度も聞いてきた言葉だが、敬うべき年上だが、いい加減怒りがたまりにたまっていた。

『……ナオくん、馬糞投げて良いよ!』

「よし来た!!」

その時のおぐりさんの顔は見物だった。一瞬で青くなり、何も言わずに退却準備をしていた。
これが主人の特権である。ざまあみろ。





「敵の主将を討つ。雑魚は頭を失えば行動できない。こんなことに、何の意味がある」

刀装選びに悩んでいたところ、おぐりさんに声を掛けられる。
基本的に話しかけてこない彼が、私に対し口を開いた。無返答は良くないだろう。

『それは、貴方方の活きた時代では、ですよね』

「何?」

『刀装を弄りながらで良ければ、話くらいはします。座られてください』

開けられたままだったふすまを閉め、どかりと座り込む。ふてぶてしさは相変わらず。
采配と言うより、そもそも集団行動が嫌い……いや、苦手なのだろうか。
私自身はそのことをさして気にしていない。

『まあ小娘の戯言です。不満があるならそれで構いませんから』

「……で、雑魚は雑魚じゃない。それはどういう意味だ」

『身内を容易く殺せる時代に、雑魚も大将もありますか?答えは否です。今は有能か無能かの時代。
頭を潰したところで、他が簡単に取って代わりますよ。
だって、敵同士はあくまでも利害が一致しているだけの同盟関係であっても、仲間ではないんですから』

「あんた、敵を根絶やしにする気か?」

『そうしたいなあ、くらいの気概です』

誰がいつ、どの資材をどの分量で使用し、何を作り上げたのか、紙にまとめる。
面倒な作業でも、積み重ねたそれは大きな価値を持つ。

『こういう、書物のようになりたいですね』

「は?書物?」

『知識を蓄えるというのもそうですが、1枚、1文字では無意味なそれが、書物として集束すれば、意味を織り成します。私は、1人1人が意味を持てる集団にしたいと……。って、熱く語る事でもありませんね』

情報を整理し、おぐりさんに合う刀装を見繕う。

「……次、どこを制圧するつもりだ」

『そうですね……。できれば、依頼札を回収できると助かります。手数は多いに越したことはありません』

「そうか」

『単独行動は、原則認めていませんからね』

「言っているだろ。慣れ合うつもりは無い」

『言っているだけですよね』

憎まれ口を叩いていることは自覚している。おぐりさんも、私も。
刀装を差し出すと、彼は何も言うことなく、ちゃんと受け取る。

『ああ、そうです。おぐりさん、別に単独行動していただいても構いませんよ』

「藪から棒に、何を言い出すかと思えば」

『話は最後まで聞きましょうね』

立ち去ろうとしていたおぐりさんを引き止める。想像通り怪訝そうな顔で、私を見る。

『私、刀帳を持っているわけですけど、そこに書いてある情報は、貴方方を味方に引き入れただけでは埋まりません』

ここ一番の笑顔で、止めの一言を言ってやった。

『無謀に最強の敵の本陣に単騎で乗り込んで、刀装も無しに奮闘し、必殺技を決めて来てください。
まあつまり、脱げ。だが破壊されるな』





【その後】
「……あんた、口も性格も悪いな。鬼の子か?」
『失礼な。合理的な判断をしているまでです。
刀帳は埋まる、刀装は無駄にならない、おぐりさんは単独行動ができる。何か問題が?』
「本気じゃないだろうな」
『冗談に決まっているじゃないですか(ノリ悪)』
「目が笑ってないぞ、目が」
『(おっと、いけないいけない)』
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