ホットロード

□9
2ページ/3ページ







えりちゃんちは倉庫から5分くらいのところにあるアパートだった。



ボロいけど我慢してね、なんて言ったけど、部屋の中はものすごくオシャレ。



『綺麗にしてるんだね』



EL「ほんとは昨日から誘おうと思ってて掃除したんだ 笑」



自分で嘘がつけない性格、と言う通り本当に隠し事ができないみたい。

そういうところも好感がもてる。



『JSBのメンバーの家に来たの初めてだよ』



EL「健さんちとか行ってないの?」



『今度連れて行ってくれるって言ってたけどまだ行ってないの』



EL「結構遠いからね」



『えりちゃんはじろーの家行ったことあるの?』



EL「あるけど、凡人には理解できない世界観の部屋だよ」



『そっか〜自分でも言ってたよ。女の子来ても面白くない部屋って』



EL「俺んちもなかなか………全然面白くないね」



『ううん。あ、CD見てもいい?』



えりちゃんの部屋はいろんなものがあって、世間知らずの私にとって博物館みたいなところだった。



『このマーク見たことある』



EL「Rolling Stonesだよ。聴く?」



『うん!』



これまたオシャレなコンポがあって、さすがミュージシャンだなぁって思う。



『えりちゃんは音楽が好きなんだね』



EL「うん。音楽は俺の全部なんだ」



『………すごいね。そんなに夢中になれることがあるって素敵なことだよ』



EL「正直今のままいっていいのかなって、最近すごく思うんだ」



いつも明るくてJSBのムードメーカーで楽天家な彼の姿はなかった。

きちんと音楽に向き合う、ドラマーとしてのELLYだった。



『今のままって、JSBを続けるかどうかってこと?』



EL「ううん。

JSBを辞めるなんて考えたことはないよ。

誰がなんと言おうと俺は最高のバンドだと思ってるし。

でも何ていうか、意識の違いが大きいんだよね。

初めて言うけど、俺は本気で音楽やりたいと思ってるんだ。

ちゃんと、音楽で食べて行けるようになりたいって。

でもみんなちょっとずつ目指すものがちがってさ、俺このままでいいのかなって不安になってきて」



『えりちゃんは、JSBでデビューしたいの?』



EL「俺は、っていうかみんな少なからず思ってるよ。………たぶん、隆二くん以外」



『イマイチ?』



EL「あんなに才能があるのに、デビューしたいなんてこれっぽっちも思ってない。啓司さんのガソリンスタンドは俺が継ぐんだって言ってるくらいだし」



意外だった。

それよりも、ショックだった。



あんなに素敵な歌声で、曲を作る才能もあって、まさに天才なのに。

きっとイマイチはすごい人になるんだって勝手に思っていた。



EL「遊びでやってるわけじゃないけど、俺らと若干意識は違うかな」



『じゃあ、トサカは?』



あんなに仲良しのふたりなのに、目指すものは違うの?



EL「逆に臣くんはデビュー願望が誰よりも強いんだ。住むとこも倉庫の2階で、生活切り詰めて音楽にだけお金を割いてるような人だから」



『そう、なんだ』



どっちかといえば逆のタイプだと思っていた。

バンドの曲をかいてるイマイチは音楽に対して熱いタイプで、冷静に物事を見極めるトサカは冷めてるタイプって。

でも違った。



EL「臣くんは、………ていうかみんな、隆二くんがいないとだめだってわかってるから何も言わないだけだよ。きっとデビューしたいなんて言ったら隆二くん抜けるって言い出すから」



『でもそんなの、』



そんなのおかしいよ。

どうしてそこまでしてイマイチに執着するの?



EL「きっと俺らとGENERATIONSを比べてみたら隆二くんがいないといけない理由がわかるよ」



どうして、そんな悲しそうな顔で笑うの?
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ