蒼紅翠 -soukousui-

□望月の嫉妬
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「公明殿、」





「張、....文遠殿。」





噂をすれば張遼が現れた。



徐晃の妬みの歯止めになっているのが、張遼の呼び方だ。

張遼は徐晃だけ字で呼ぶ。



徐晃にとって、それが唯一の特別扱いであった。




徐晃は普段 張遼と呼んでいるが、
張遼の好意に応えて徐晃も二人きりだけの時は
文遠と呼ぶようにしている。






「どうしたのだ....。こんなに冷え込む夜にわざわざ外に出て」




「月、を見ていたのでござる。」





「ほう、月を?」





「見てくだされ。この満月を。零れんばかりに満ちている....」







そういう徐晃の横顔は、少し寂しそうであった。


張遼はその様子を見逃さなかった。






「公明殿。何かあったのだろう?」





「......」





「顔に出ている....。遠慮なく、話してくれ」





「いや....」






「それとも、私には言えぬようなことなのだろうか」






徐晃の胸が締め付けられた。



張遼に隠し事はしたくない。

しかしこのようなことを伝えても良いのだろうか....。




徐晃は口を噤んだまま、張遼を自らの身体に引き寄せた。







「こっ、公明殿?」





「文遠殿....。今は、言えぬでござる....」





「む....」





「だから今度で....お頼み申す。」





「........承知した」





「かたじけない」





そう言って徐晃は張遼を離した。


張遼は徐晃に軽く会釈して、陣営内へと戻っていった。







「(あァ....張遼殿....あの方向だと、恐らく関羽殿の元に....)」







徐晃は張遼の闇に消えゆく背中を見つめながら、
深く溜め息をついた。
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