蒼紅翠 -soukousui-
□望月の嫉妬
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あァ....
愛しの張遼殿....。
貴公が好きでたまらない....。
陣営の隅で一人夜空を見上げているのは、
曹軍の将 徐晃であった。
夜空に一人で佇む満月に徐晃は胸を痛めた。
「月はこんなに満ちているのに....張遼の心にある”拙者”は....」
全く満ちていない。
むしろ張遼殿の心には違うものが満ちている....。
関羽殿。
そう、張遼殿の心を満たしているのは関羽殿なのだ。
関羽殿が降ってきてから、 張遼殿はずっと関羽殿の元に通い詰めている。
拙者とも話すのだが、関羽殿と比べたら....。
徐晃はこの時、いや、関羽が降ってきた時から
関羽に対し嫉妬心を持っていた。
自分よりも遥かに上回っている武、兼ね備えた智、
そして何より....張遼の心を射止めた魅力....。
関羽の全てを妬んでいた。
張遼と関羽が少しでも接すれば、それはもう殺意を覚えるほどであった。
「関羽殿には....渡さぬ」
独り言を呟いていると、後ろから誰かが近づいてきた。