小説
□2週目の人生の母がお偉い様の件について。
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普通じゃないと思われるだろうが、落ち着いて聞いて欲しい。
僕には前世の記憶がある。
そしてこれは同じ人生だと思われる。
そこで僕が行き着いた結論はもう一度警察官になり、警察庁警備局警備企画課通称ゼロに所属して今度こそ、誰も死なせずに組織壊滅まで追い込んでやる。
だが、1つだけ困ったことがあった。齢1歳の時に前世の記憶があることに気付いたが、なんと今回は僕に両親が居らず、孤児院で生活しているということだ。
これは非常に困り、なんとか里親が申し出てくれないだろうかと思っていたが中々現れなかった。
ある日のことだった。
警察官が施設内に入り込み、僕は保護された。恐らくあの施設は犯罪を犯していたのだろう。これからどうなるんだと思った。
すると、若い女性に名前を聞かれて「あむろ、れい」と答えると女性は頭を撫でて僕の事を抱き上げ、今日から君は私の可愛い子どもよ、と言った。
こんな形だったが、嬉しかった。これで、目標にひとつ近付いた。
女性に手を引かれ、連れていかれたのは東都、米花町のセキュリティがとても良いマンション。
こんな所に住める女性が僕の母か…と思った。母はなんの仕事をしているかわからないまま、僕は18歳になった。
幼い頃に景光と出会い、ずっと一緒に進路を決めて、進んでいた。
東都大学の法学部に入り、卒業後に警察官の採用試験を受けて、見事合格し、伊達や松田や萩原にも出会った。
落ち着いた頃に母へ家へ同期を連れて行っても良いかと尋ねると、連れておいでと良い返事を貰ったので連れて行った。
簡単に紹介すると母はイケメンばっかりねと微笑んでいた。それから母が仕事が片付いていないから、行ってくるわ!お留守番宜しくね!とスーツを着てバタバタと出ていった。
その後、何度か彼らを連れていき、母にちゃんと紹介をした。
警察学校卒業後、交番勤務があった。それを終えて配属先がわかった。
警察庁警備局警備企画課通称ゼロに僕は所属となり、書いてある日付、時間に指定された部屋で待機していると、景光、萩原、松田、伊達が入ってきて驚愕した。
なにかあるのではないのかと疑問を抱いたが、そんなことを気に出来るような状況ではなかった。
ある日、5人皆が上層部に呼び出されて会議室へと向かい、中へ入ると警察庁長官が出席するお偉い方たちの会議だった。
長官にそこに掛けなさいと言われ、恐る恐る腰掛けて、来ていない次長官を待つこと凡そ10分。次長官が入ってきて僕は目を見開いた。
次長官の席に着いたのは、母─降谷 真─だったのだ。
何故母がここに?間違いではないのか?と思い、置いてある名前を確認すると『警察庁次長官 降谷 真』としっかり記載されていた。
頭が真っ白になったが、会議に出席しているので、真っ白にしている場合じゃないと思い、首をぶんぶんと振り気持ちを切り替える。
会議内容は黒づくめの組織潜入に関することだった。潜入捜査官は僕と景光だった。
前世と変わらないなと心の中で笑ってしまった。そんなこんなで会議が終わった。
「───以上で会議を終わる。降谷、諸伏、松田、萩原、伊達は明日、次長官の元へ行け。」
「………………明日の10時に私の執務室へ来るように。」
無表情で母はそう言い、会議室をあとにした。皆から質問攻めに合うが、僕にもわからない。
何故母は僕に黙っていたのだろう。そう思ったがそれは後日簡単に謎が解けた。
翌日、指定された時間に次長官執務室の扉をノックし失礼致しますと声をかけて中に入った。
すると母は部下が来たのだと思ったのだろう。
「あぁ、来たか。菊地、すまないがこの資料をあと5部刷ってくれ。それと、」
「降谷次長官。」
ばっと顔を上げる母。
焦った顔をして、部下に連絡をして何かを伝えたあと、「そこのソファに腰掛けてくれ。珈琲を用意しよう。」とそそくさと給湯室の方へ向かい、珈琲を入れに行った。
あぁ、この場から逃げたなぁと思ったが母はきっと恥ずかしかったのだろう。皆、顔に緊張していると書いてある。それにつられて僕も緊張してきた。
ことりと目の前に珈琲が置かれ、資料を手渡される。珈琲を一口。あぁ、母の好きなコロンビアだと思った。そんな母は自分用の資料を手に持ち、ソファに腰掛けて口を開いた。
「さて、改めて挨拶をしよう。警察庁次長官、降谷 真だ。驚かせてすまなかった。」
「降谷の母さんが、次長官だなんて知りませんでした。」
松田がそう言うと母はふと笑い、こう言った。
「あぁ、次長官になったのは先月でな。急だったから、知らなくて当然だ。……さて、私は君たちに謝らねばならないことがある。」
母はそう言ったが、何も謝られることが無いのに母は謝ると言った。頭にはてなマークが浮かび、思わず首を傾げてしまった。母は言葉を続ける。
「本来であれば、陣平くんと研二くんは警視庁機動捜査隊爆発処理班、航くんは警視庁刑事部捜査一課、景光くんは警視庁公安部に所属する予定だった。だが、零が元々1人だけ所属する予定だった警備局警備企画課の管理官から人手が足りないと言われてね。理由を尋ねると警視庁公安の膿が酷いと言われてね。除去するために人員足りないから寄越せと言われたんだ。そこで私の判断で成績優秀な君たち5人をまとめて警備企画課に渡した。すまなかった。私の判断で所属を決めてしまって。」
母は頭を下げて謝った。
ぴったり45°の角度でだ。仕事としての謝罪ではなくて母としての謝罪だった。
謝ることではないと僕は思う。彼らがゼロに配属することになって、いつ死ぬと確定した道筋から外れたのだ。
22歳の11月7日に萩原は爆弾解体作業中に防護服を着ていなかったことにより殉職。
25歳の9月27日に景光はNOCだとバレて逃走し、組織に追われてライ─赤井秀一─が見つけて追い詰め、廃ビルの屋上に駆け上がり、ライの拳銃を奪い僕の足音を組織関係者(僕以外の人物)と聞き間違え自殺。
26歳の11月7日に松田は観覧車の中で爆弾解体作業中に残り3秒でもう1つの爆弾の場所のヒントが出ると表示され、それを確認後、佐藤刑事に伝えて殉職。
28歳の2月6日に伊達は警察手帳を落とし、拾おうとした所で暴走トラックに轢かれて亡くなった。その一報を聞いた伊達の奥様になる予定だったナタリーさんは自殺。北海道からナタリーさんのご遺体を引き取りにくるはずだったナタリーさんのご両親は交通事故で亡くなった。
そして、僕は1人となった。
支えてくれる人が居たが、やはり同期と違って超えてはならない線があるため、仲良く出来なかった。
今世では彼らを必ず助けようと心に決めていた。それを母が手を出してくれて助かるかもしれないという道が増えたのだ。
謝る必要なんてないと思い、母に告げようとすると萩原が口を開いた。
「寧ろ一緒で良かったです。な、松田。」
「あぁ、降谷…零1人だけだったら心病みそうだよな。」
実際心を病んだ。病んだせいで赤井には申し訳ないことをしたと今でも思ってる。今世では優しくしようとたった今、心に決めた。
でも多分、優しく出来ない気しかしないが。ふと母を見ると微笑んでいた。いつもの母の表情でこちらを眺めていた。
ちらりと時刻を確認してそろそろ始めないとまずいなと思ったのだろう。母の纏う雰囲気がガラリと変わる。
あぁ、仕事モードだ。ぴりっと緊張感が走る。
「さて、君たちをここに呼んだのは先日の会議の際に話していた潜入捜査についてだ。国際犯罪組織、黒づくめの組織に潜入して貰う。潜入捜査官は降谷、諸伏。君たち2人だ。」
「本当に僕と諸伏で良いのですか?」
念の為、尋ねてみると母はきょとんとした顔になり、ふっと笑い頷いた。
「あぁ。伊達、萩原、松田は彼ら二人の連絡員兼サポート役だ。潜入捜査の際は多少…いや、かなり犯罪に手を染めてしまう。その際に彼らは心を病む。私も初めの頃病んだからな。さて、資料を捲ってくれ。」
資料を捲るとしっかり目次があった。母の部下の方はとても仕事が出来るようだ。わかりやすい。
目次を捲ると組織の今まで行ってきた犯罪行為が事細かく記載されていた。さらに捲っていくとボスや幹部の名前や主なアジトの場所まで。僕の記憶と全て一致する。
凄いと思ってしまったが、疑問が浮かぶ。何故、母はここまで詳しく組織のことを知っているのだろう。部下から手に入れたとしても、情報が細すぎる。
犯罪行為のやり方を見ているかのように思えるし、ジンやベルモット、ウォッカぐらいしか知らないとされていたアジトの場所まであるのだ。
そんなことに頭を悩ませていると資料を見ていただけの僕たちを見かねた母が口を開く。
「2人にはコードネームを貰って潜入して欲しい。降谷は情報屋として、諸伏はスナイパーとして。そうね……私が引き込むわ。」
「「え?」」
何故、母が組織に僕と景光を引き込めるんだ?まさか組織と繋がりがあるのか…!と怒りの目線で母のことを見てしまう。
母はそんなのを気にもせず、伝え忘れを伝えるかのようにけろりとした表情でとんでもない事実を口に出す。
「あぁ、そうそう。私、次長官だけどまだ潜入してるの。コードネームはラムよ。」
「ラムって、No.2じゃないですか……!!」
「ありえない……。」
伊達、激しく同意だ。
次長官という現場から離れた職に着いているはずなのに何故、まだ潜入捜査しているんだ。
僕は昇格したあと警視正になったが、現場に出ることはほとんどなかったし、潜入捜査だって全てなくなった。ポアロで働くのは楽しかったのに、辞めざる負えなくなつてとても悲しかったが。
少し話がずれてしまった。組織壊滅していない上で母がNo.2の地位にいるとなれば、潜入捜査を離脱させるわけにはいかない。
No.2であるということはなるべくほかの現場に行かせて組織関係者に目撃される訳には行かない。尚且つ、現長官がありえないぐらいに信頼している。
となれば次長官でも特例で潜入捜査をしているのだろう。そう納得した。納得させてくれ。頭がパンクしてしまう。
「さて、質問ある?」
あらかた話を終えた母がそう僕らに問いかけた。
沢山尋ねたいことはあるのだが、それは母に関することで、組織に関係することではないので特にないと思っていると景光が口を開いた。
「降谷次長官、貴方は僕達を引き込むと仰いました。具体的にはどう引き込むのですか?」
「いい質問ね。簡単な事だ。私が拾ってきたと言えばいい。ラムはなんでも拾ってくるから。」
今世でもラムはなんでも拾うのか。
前世では拾ってきて育てろとジンに投げて、ジンはめんどくさいから僕に育てろと投げてきた。今世もそうなる未来が見えた。
「……つまりは、」
「私に任せなさい。あぁでも、そうねぇ…スラム街に居そうな感じに変装してくれ。コードネーム貰うまでは組織に加入してから1ヶ月。その間に私が仕込むわ。色々とね。」
前言撤回。今世のラム(潜入捜査官の母)はしっかりと育ててくれるみたいだ。
とても嬉しくて心の中でタップダンスを踊った。
ありがとうございます母よ。僕の仕事を減らして下さって。ありがとうございます。
今世ではしっかりと睡眠が取れそうだ。偽名を考えてくれたらしい母に紙を貰う。皆の偽名に目を通す。
降谷 零は安室 透。
諸伏 景光は緋色 光。
萩原 研二は三木 圭一。
松田 陣平は神田 迅。
伊達 航は藤原 類。
やはり、前世と同じだったがその方が慣れているので助かる。
そして母は組織に関連する仕事だから警察庁以外では偽名を使うこと、親しい人との連絡もなるべく取らないようにと告げてきた。
僕は慣れているので大丈夫だが、他の4人はどうだと見ると伊達が1番悲しそうな顔をしていた。
あぁ、ナタリーさんと連絡が取れないからか。悲しいよな、でも仕事だから、我慢してくれと思ったら母が口を開いた。
「まぁ、連絡するなとは言ったが、親しくて信用できると私が判断した人には定期的にあっても良い。恋人や家族の申請書類を出してくれ、私の方で調べあげる。以上だ。」
伊達が嬉しそうな顔をして書類を受け取り、僕らも受け取って執務室を出る。
色々と聞きたいことがあるので、今日は自宅ではなく実家に帰ろうと思った。
まぁ、実家に帰ったら母は居なかった。そりゃ忙しいよな。
でも寂しいと思ってしまった。
いいや、僕は寂しくない。すぐ母さんは帰ってくる。
そう心に言い聞かせて母の布団に潜り込んだ。