小説
□前世と同じ人生を送っていたら、何故かトリプルフェイスが恋人でした。2
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「わぁ…!」
「ふふ、ペンギンが好きなのかな?」
「はいっ!ペンギン大好きです!」
水族館に来てぶらりとしているが、ペンギンの前で足を止めた彼女。
どうやらペンギンが大好きで、赤ちゃんペンギンがめちゃくちゃ可愛い!ときらきら目を輝かせて見ている。
僕からしてみれば君の方が可愛いんだけどね。
「…すみません、ここで時間取らせちゃって!進みましょう!」
「気にしなくていいんですよ、詩織さん。」
わたわたと慌ててこちらを向き先に進もうと手を引いてくれる。ちゃんと恋人繋ぎしてくれるのが嬉しい。
いつもは緩まない表情筋が緩むのがわかってしまった。いつものポーカーフェイスはどこへ行ったと思い、片手で頬を叩く。
くすくすと笑う彼女を見て、またふにゃりと頬が緩むのがわかった。
「ふふ、透は笑うと可愛いね。」
「男なのに可愛いと言われて少し驚いているよ。」
「かっこよくて、可愛いのが透!」
にぱっと笑顔になりながらそんなことを言われたら照れてしまう。顔が少し熱くなってきた。
これでよく公安が務まるな、ポーカーフェイスを保つんだ降谷零。はっと何かに気付いた顔をする彼女。
彼女の視線の先には良く知った人物が立っていた。
「あの人…透の知り合い?」
「なんでそう思うんですか?」
「ずっとこっち見てるから。」
「えぇ、僕の友人です。」
ひらりと手を振るとぶんぶんと手を振り返してこちらへやってくる。安室透では友人、降谷零では幼馴染の翠川唯──諸伏景光──だ。
何故ここに居るのかはわからない。
「唯、何でここに?」
「仕事でな〜!っと、デート中か?」
「えぇ、デート中です。こちらは僕の彼女の有栖川詩織さん。」
「は、はじめまして!有栖川詩織と申します!」
「はじめまして、翠川唯だ!宜しくな、詩織ちゃん。」
「よろしくお願いします!」
僕に隠れていた彼女に手を伸ばし握手をした唯。
その格好で仕事ということは…組織関連か。周囲を見渡すと今、出会いたくないベルモットを見つけてしまった。
ベルモットは僕と目が合うとこちらへ歩み寄ってきた。やめてくれ、僕は今デート中なんだ。
「はぁい、バーボン。」
「…こんにちは、ベルモット。」
「ばーぼん…?」
「詩織さんは気にしなくていいですよ。」
「う、うん。」
そっと自分の影になるように手を繋いだまま彼女を隠すようにする。それを見ていた唯はそれとなく隠すように立ってくれる。
面白いものを見つけたという表情のベルモットがら声をかけてくる。
「バーボン、もしかしてデート中?」
「えぇ、デート中ですよ。」
するりと僕らを避けて彼女の目の前にやってくる。彼女はびくびくしながらベルモットの事を見ている。
身長が低い彼女の目線に合わせるように少し屈むベルモット。(少しだけ優しいなと思ったのは内緒である。)
「はぁい、お嬢さん。」
「こ、こんにちは…、」
「クリスよ、貴方の彼氏の同僚よ。」
「有栖川詩織です…、はじめまして、クリスさん。」
「あら…もしかして貴方…。有栖川社長の長女ね?」
「……はい。貴方は、私を連れ戻しに来たんですか…?」
きっとベルモットのことを睨みつつ、僕の服をぎゅっと掴む彼女。彼女の勘違いとはいえ、彼女の父の事を思わせるベルモットに殺意がわく。
唯にどうどう怒りを抑えろと言われるが仕方ないだろう。彼女の恐怖心を煽ったのだから。
僕もぎろりとベルモットを睨むとベルモットはハンズアップして笑う。
「連れ戻しに来るも何も、私は貴方の父の部下ではないわよ、kitty。」
「……そう、ですか。すみません。」
ぺこりと頭を下げる彼女のことを僕から攫って抱きしめるベルモット。彼女はその行動に固まって反抗も何も出来ていない。
離そうとしたが、唯に止められる。いいから黙って見てろと言わんばかりの雰囲気に落ち着くことにした。
「kitty、貴方はなにも怖がらなくていいの。彼は守ってくれるわ。」
「…、」
「えぇ、そんなことしなくて済むわ。それじゃあkitty、またね。…行くわよ。」
すっとベルモットが彼女から離れると彼女の表情はいつものものに戻っていた。ベルモットは唯を連れてどこかへ立ち去った。
彼女は手を繋ぎ直して歩き始めた。そのまま特に何も話さずに水族館を歩き続ける。
最後の方に彼女が口を開いた。
「透は色んなことしてるんだね。」
「…えぇ、僕は何でもしますよ。」
ぴくりと小さな反応を返す彼女。耳貸してと言われたので彼女の背に合わせて少し屈む。
彼女は少し顔を赤くしてごにょごにょとしているが、意を決したように僕の耳に手を当てて囁く。
「もし、結婚前提で付き合いたいって言ったら……してくれる?」
「え…?」
結婚前提に、付き合いたい。結婚前提。けっこんぜんてい……???結婚?!??!
いや考えてたけど、彼女の口からそんなこと聞けると思って無かったから驚き過ぎて何も言葉が出てこない。
「…嫌、ですよね…すみません、忘れてくだ、」
「僕は最初からそのつもりで君に告白をしたんだ。」
彼女の両手を握ってそう言って顔を見ると彼女の顔は真っ赤に染っていた。彼女の唇に触れるだけのキスを落とす。
彼女は更に赤くなっていた。
く〜…というお腹の音が聞こえた。彼女はお腹を抑えててへ、と笑った。
「ははっ、晩御飯食べて帰ろうか。」
「はいっ!」
手を繋ぎ直して駐車場へ向かって歩き、助手席のドアを開けてエスコートする。何が食べたい?と訊ねると何でもいいとの事なので、公安御用達の寿司屋へ行き、美味しく食事を取り、本宅へ帰った。
彼女がお風呂に入っている間に組織用の端末を確認すると明後日にライ、スコッチとの任務が入っていた。
相変わらず僕はハニートラップ担当のようだった。
「お風呂、上がりました〜。」
「おいで、ドライヤーするよ。」
「はぁい。」
ぶおーっと彼女の髪をドライヤーで乾かしていく。
一度も染めたことがないという腰あたりまで伸びている真っ黒い髪。キューティクルな髪質だと思う。(僕も男性にしてはキューティクルらしい。)
「はい、乾いたよ…?」
「すー…すー…。」
髪を乾かしている時にこくりこくりとなっていたのは分かっていたが、どうやら寝てしまったらしい。
今日は仕方ないだろう。色んなことがありすぎた。
彼女を横抱きし、ベッドに寝かして布団を掛けてからお風呂に入り、彼女の横で眠りについた。