小話

□変化に気付かない(ショウアコ)
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「だから、一人で出歩いてはいけないと言われている」



つい先日読み終えたばかりの本。
その内の一冊を取り出す。
内容は頭に入っていたから挿絵をアンコに見せて、ゆっくりと語った。
最後の章を終えてアンコを見ると思った通り、口元を引き攣らせてもう冷めてしまっているだろうアンコ用にと甘めに作ったココアが入っているマグカップを大事そうに胸元に引き寄せていた。

「へ、へぇ、…」
「こういう夕暮れ時が、この本の内容とちょっと似てるよね」
「や、やめてよ!」
「ふふ、」
「もぉー…」

気付くと外はすっかり夕日色。
その眩しい赤をちらりと見遣ってからアンコに視線を移すと、彼女は眉を八の字にしてココアに視線を落としていた。
西日に照らされたアンコの、人よりも赤い頬にうっすらと睫毛の影が落ちる。
何かいつものアンコではない、ずっと大人の彼女に会えた気がするからその瞬間を見るのが好きだった。
(外で見るより自分の部屋で見る方がいい。何故かは分からない)
いつもより紅く染まった髪、瞳、肌、服をひとしきり見遣ってから夕日色を遮断するようにカーテンを引き、電気を点けるといつも通りのアンコがそこにいて少しだけほっとした。
この瞬間も好きだったりする。

「ご馳走…あ、あたしもう帰るね」
「家まで送るよ」
「あ、ありがとう」

カーテンの隙間から射す夕日の色を見て、少しだけ慌てたようにランドセルを背負うアンコと一緒に立ち上がって部屋を出る。
僕に向かってか家に向かってか、玄関先で「お邪魔しました」と言う彼女の隣に並んで門を出た。
歩きながらさっき話した怪談の内容をぽつりぽつりと話せば、「一人で歩けなくなるじゃん!」と、さっきみたいに眉を寄せて心底困った風に肩を落とすアンコに、これからずっと僕が家まで送るよ、とは思っても言えず、彼女に気付かれないように笑う自分が何だか滑稽な気がした。


アンコを送り終えて自分の部屋に戻ると、アンコが使っていたマグカップや挿絵を見ていた本が三四冊程テーブルに積まれていて、彼女の痕跡が色濃いく残っていた。
それに一瞬満足する自分はなんなのだろう、と疑問に思うが深く考えることはせず、読み掛けの本を手に取り、ついさっきまで彼女が座っていた場所に腰掛けて本を開いた。
自分の好奇心と彼女の探求心を満たすために。



変化に気付かない。
(いつの間にか、僕のテリトリー内にいる)





end
ショウ→アコ?
ショウ+アコ?
どっちつかずですね。
ショウくんは人に執着しないと思うけど、アコ達のクラスに来てからはゆっくり人らしい執着を見せればいいと思う。
アンコは何となく、異性を意識してない感がありそう。
けど、はっとした瞬間に「男の子」を意識してパニックになりそう。

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