トリップしちゃった系女子です
□3 アルバイト、始めました
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お登勢さんにも今までのお礼を告げて、私が新しいお仕事を始めてから約10日。
ようやくお店の仕事にも慣れてきて、常連のお客さんと会話をすることも出てきた頃だった。
カランカラン、と店のドアが開く音がして、私は着物のようなワンピースのようなこの店の制服の裾を翻し、持っていた食器を片付けるとドアの方へと向かった。
「いらっしゃいま…………せ」
「あんた、こんなとこで何してやがんでィ?」
怪訝な…ように見せかけて、面白がるような憎たらしいにやにや顔で私を見つめているのは、一番会いたくなかった人物────沖田総悟だった。仕事中なのか、いつもの真選組の制服を着ている。
「おーい。聞いてんのかィ?」
「…ご覧の通り、アルバイトです」
お登勢さんや銀さんたちにも、私がここでアルバイトをしているのは沖田くんにだけは内緒にして欲しいと伝えていた。それでもまさかこんなに早くバレてしまうとは…自分の運の悪さを呪いたい。
が、仕事は仕事だ。できる限りでも、マニュアル通りに動かなければ。
「…1名様ですか?」
「あんたが一緒にお茶してくれるってんなら2名になるぜ」
「1名様ですね。それではお席にご案内いたします」
彼の戯言は無視を決め込むことにして、空いている席に案内する。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」と告げてそそくさと戻ろうとすると、右手をつかまれる感触。…ああ、面倒くさい。
「…何でしょう。仕事に戻りたいのですが」
「おすすめのパフェは?」
「…え?」
「あんたのおすすめが食いたい」
私をまっすぐに見上げてそう告げた沖田くんは、悔しいことに少し可愛かった。…甘いもの、好きなのかな。
戸惑いながらも私は、少し意外なその質問に丁寧に答えることにした。「私のおすすめ」という事を示すために店員としての口調をやめて、それからほんの少しの微笑みを添えて。
「えっと、ストロベリーパフェは甘みが強いんだけど、味はとっても美味しいからおすすめだよ。甘さ控えめのが好きなら抹茶パフェとかもいいかなぁ」
「へぇ…プリンの方は?」
「んーと、割とプリンが大きいから、パフェ半分プリン半分って感じで欲張りな感じかな」
「ふーん…」
視線を落とし、メニューをじっと眺める沖田くんはすこし子供っぽくて、素直だとやっぱり可愛いんだなぁと思わされてしまう。悪態をつかなければなぁ、なんて不毛な考えに至ってしまうほど、その表情に性格の悪さは見られない。
「じゃあカツカレーで」
前言撤回。可愛くない。
始めからこれを狙って聞いてきたとしたらコイツは相当ひねくれてる。
その直後、店長さんに"厄介なお客さん"の正体を聞いた私は納得すると同時に、深い深い溜息を吐くのだった。