トリップしちゃった系女子です

□2 個性的な人ばかり
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所謂“トリップ”と云う、世にも奇妙な体験をして、土方さん達に万事屋に連れてこられた次の日。



「まぁ、別に万事屋に入りたかった訳じゃないけど……」



持っていた竹箒の動きを止め、溜め息を吐いてしまう。



「万事屋から更にお登勢さんの所に回されるなんてなぁ……」



そう。銀さんは私をお登勢さんの所へ連れてきたかと思うと、ほんの少しの経緯と“コイツ頼むわ”と云う言葉だけを残して自分はどこかに出掛けてしまったのだ。

しかしありがたいことに、お登勢さんは深くは聞かず、空いている部屋を貸してくれた上“スナックお登勢”で働かせてくれると言う。

とりあえず働き口としばらくの寝床を得ることは出来たので、銀さんなりの優しさだったのかもしれないとも思うのだけれど。



「瑠璃、もうすぐ店を開けるからね」

「……!」



突然こんなことになって、とてつもない迷惑をかけてしまっていると考えると────何となく気まずい。

せめて店の事をたくさん手伝いたいとは思うけれど、普通に学生をやっていた私は仕事をするのは初めてだ。むしろ失敗ばかりして更に迷惑をかけそうで怖い。



「瑠璃? ……何だいアンタ、緊張でもしてんのかィ。誰にでも初めてはあるし失敗は付き物さ。気楽にやんな」

「ありがとう…………ございます」

「それよりこっちにおいで」



手招かれ、素直についていくと、店の端に積まれた幾つかの箱が目に入る。私が首をかしげている間に、お登勢さんはそのうちの1つを開けて、中から綺麗なオレンジ色の着物を取り出した。



「ほら、そんな格好じゃ目立つだろう? 着替えもないようだしね。あたしの若い頃のだけど、今はこれで我慢しな」

「わ……綺麗……。あの、本当にこんな綺麗な着物、借りて……いいんですか?」



控え目に尋ねると、もうあたしは着ないから気に入ったならあげるよ、とお登勢さんは笑った。

1つだけ言っておくと、お登勢さんへの申し訳無さに私との年齢差もプラスされ「漫画の登場人物に敬語なんて馬鹿らしい」と云う私の考えは、ぽっきり折れてしまっていた。きっと他の人には発動しない……ううん、させないけれど、彼女だけは特別。



「他にも色々あるけど、とりあえず今日はこれを着て店に出ると良い。着方はわかるのかい?」

「うん、と……とりあえず着てみます。無理そうだったら助けてください」



そう告げて着物や帯を持って部屋に向かう。


かなり昔、おばあちゃんに教わった微かな記憶を頼りに、どうにか着終わった。鏡を見てみると、自分ではそこそこの出来だと思えた。お登勢さんに確認してもらうべく、店の方に出ていく。



「お登勢さん、一応着たんですけど……これで大丈夫ですか?」



声をかけると、箱を片付けていたお登勢さんは振り返り、優しい笑顔を浮かべた。



「普段は着ないようだったから心配していたんだけど、大丈夫だったみたいだねェ……ここ以外は」



そう言って私の後ろに回り、帯を直してくれた。



「ありがとうございます」

「さ、店を開けるよ。初仕事、頑張っておくれよ」



私は返事の代わりににっこり笑い、入り口へ向かったお登勢さんを見つめながら大きく息を吸い込んだ。
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