トリップしちゃった系女子です
□1初めまして、知ってる人達
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「わかんないだぁ?」
「気付いたら、知らない場所にいて……。どうやって帰るのかも、さっぱり……」
当たり障りのない言い方でやり過ごそうと、私は言い訳じみた言葉を並べた。
ちなみに土方さんに敬語を使っていないのは、私の中で彼は「登場人物」だから。
キャラクターに敬語なんて馬鹿みたいだもん。
逸らしていた視線を戻すと、ばっちりと目と目が合った。思わず目を逸らし、再び(怯えながら)彼の顔を見た。
「……ったく。要するに迷子ってことか?」
「うん……そんな感じ、です……」
呆れたようにため息を吐かれ、私は唇を尖らせた。幼い頃いたずらをして母に怒られたときのことを思いだし、少しだけ自身を嘲笑した。
そう、子供の頃の私は、それはそれは立派ないたずらっ子だったのだ!
「あ」
「あ?どうした。何か思い出したか?」
「いや、あの……土方さんって、副長さんなんだよね」
「そうだ」
「副長さんって、上の立場の人で、偉い人なんだよね」
「……まぁ、立場上はな」
「真選組って暇なの?」
「んなわけあるか!!」
怒られた。だが私ももう16歳だ。少しくらい反論をすることなど容易い。
「だって、危険物も持ってない女の子の取り調べに、わざわざ副長さんが出てくる理由なんてどこにもないでしょ? あるとしたら、よっぽど暇だったか……」
「よっぽど人がいなかったか。……ってか?」
先を読まれたことに驚きつつ、言おうとしていたことと一言一句違わなかったので、素直に縦に頭を振った。
「事情があってな。今ここで動ける奴がほとんどいないんだよ。じゃなきゃ───」
「土方さん。近藤さんが目を覚ましやした……って」
無造作に開かれた扉から、真選組の制服を着た若い男・・・いや、少年が姿を表した。栗色の髪と、大きな瞳が可愛らしい。
「土方さん、ついにそっちの趣味に走り出したんですかィ?」
「ちげえよ!!! 通報があった不審者だ。実際はでけえ迷子だったみたいだけどな。それより、近藤さんは大丈夫か?」
「体調も万全みたいですぜ。あぁ、赤い着物の女が天人だって言ったら安心したような顔してやした」
「わかった。それなら今は近藤さんよりも──」
「こいつですかィ?」
少年が顎で私を示したのを見て、土方さんは目を閉じ、静かに頷いた。
天人よりも問題視されているのだと気付いて先程までより気が重くなった。
「迷子っつっても……どんなとこからきたとか、それくらいガキでもいえるぞ」
「ガキって……!それくらいは言えるもん。昔は江戸と呼ばれていた所……じゃなくて言えることは何一つないよ」
「いや誤魔化しきれてねーよ駄々もれだよ」
「昔は、江戸と……ですかィ?」
復唱されるまでもなく、まずいことになったのを私はわかっていた。