◆Tudors◆

□第一章:はじまり
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16世紀のイングランド王国は国王ヘンリー8世が治めていた。

誰もが国王を崇高し、誇り高い王国であった。



−第一章−


『国王陛下の御なり!』

兵士の言葉に城に居た貴族たちは一斉に頭を下げ、王の歩く足音を耳にした。

そしてヘンリーと共に歩く金に輝く美しい髪を結い上げたジェーン王妃が微笑みながら姿を現した。

誰もがこの王妃を愛し誰もが慕っていた。

そんなある日、

「どうやら街は有名な踊り子の話題で持ちきりのようだな」

中々、やや子を授からないジェーンにヘンリーは少し不満そうな顔を浮かべながらもジェーンにそう話した。

「私もその噂を耳にしております、陛下」

ジェーンはただ微笑み頷くとヘンリーは鼻で笑う。

「ハートフォード伯」

すると、ヘンリーはジェーンの兄であるエドワードを呼び付けた。

「陛下」

エドワードは頭を深く下げヘンリーの前に現れると、ヘンリーはすぐにあの踊り子の話題を持ち出した。

「この城に踊り子を連れて来い」

「はい」

微笑み頷くエドワードであったが、部屋を出た後すぐに無表情に戻った。

というのも、王の命令が気に喰わなかったのだった。

(何故、私がこのような事を)

エドワードは苛ついた様子で家臣を連れて街へと向かった。

夕方頃、賑やかな酒屋に着くなりエドワードの品位が備わった表情に女どもは食いついた。

『あら、お兄さん。その身なりだと貴族のようね』

明らかに娼婦のこの女を見つめエドワードは不服そうな表情を浮かべる。

「国王の命によりこちらに参った。ここに踊り子はいないか?」

“国王”という名を出すだけで酒屋が騒ぎになることはエドワードは計算の内であった。

『踊り子ってあの?』

娼婦たちはヒソヒソと話すのをエドワードは不機嫌そうに睨む。

『もしかすると、ギルバート家の御令嬢のことですかな?』

そんな中、酒屋の店主であろう男がエドワードにそう尋ねる。

「ああ、その女はどこにいる」

漸く会話が成り立つ人間を目の前にした様子でエドワードは答えると、店主はニコニコと手を擦りあげている様子に気が付きエドワードは呆れ顔に金貨一枚を差し出した。

『ギルバート家でございましたら、この街を西に抜け森を越えた所に屋敷がございます』

その言葉を聞いたエドワードはすぐさま屋敷へと向かった。







外は暗がりを帯びた頃

『国王陛下の仕かいの者が参りました』

ギルバートの屋敷は何事だと言わんばかりに騒ぎが起きる。

そんな中、エドワードはヅカヅカか屋敷を上がりギルバート家の亭主であるウィリアムは頭を下げながら挨拶に出た。

『これはこれはハートフォード伯爵。私どもに何か御用ですかな?』

「ええ」

エドワードは微笑み頷くと屋敷の騒ぎを聞きつけたリナは不思議そうに姿を現した事に気が付き目を向けた。

長いダークブラウンの髪をサイドに流しているリナはただエドワードを見つめていた。

彼の品のある顔立ちと纏った空気に時間が止まるような感情を抱いていると、エドワードは笑みを浮かべた。

「ギルバート家の御令嬢であるリナ様の踊りを国王陛下が評価しておりまして…」

そう言い掛けた瞬間ウィリアムの顔がみるみる変わっていき、リナの髪を掴みあげると屋敷に居た誰もが驚いた。

『この恥知らずの娘が!未だ酒屋で踊っていたとは!この不良娘が!!』

怒鳴り散らすウィリアムにエドワードはただため息を吐いた。

「ですから、娘さんの踊りを国王陛下が評価致しまして是非とも城へとご同行願いたいと申し上げています」

その言葉にウィリアムの顔が再び変わった。

『このような恥知らずの娘が…。何と』

口を紡ぐ父親を見てリナは不敵に笑った。そして得意気に笑うとエドワードを見つめる。

「ええ、是非とも伺います閣下」

頭を下げ返事をするリナにエドワードは満足そうに笑った。
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