LYRICS


□雨の断想
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こんなはずじゃなかったのに、どこで釦を掛け違えてしまったのだろう

雨のせいだ、そうに決まっている

僕を駆り立てたのは、狂ったように打ち付けるこの雨のせい――



ベッドに横たわる君の横顔はとても穏やかで、幸せな夢を見ているのかと錯覚しそうになる

だけど、その瞳は固く閉ざされたまま
小鳥の囀りのような明るい笑い声を聞くことも、もうないのだと思い知る

雨のせいだ
初めて出逢った時も雨が降っていた

突然の夕立に立ち往生していた君
傘を差し出した僕
そこから二人の時間が始まった

何でもないことで笑いあい、狭いベッドの中で互いの温もりを感じ取り、寄り添うだけで幸福だったあの頃――

どうして時はそのまま流れていってくれなかったのだろう?

戻りたい…できることなら
手遅れだとわかっていても、今すぐあの日に帰りたい



雨は嫌いよ
頭痛は起きるし、ヘアスタイルだって決まらない
何をやっても思い通りに捗らないし……
私が悪いんじゃない、雨が降るからいけないのよ
うまくいかないのは全部、全部雨のせい

傲慢な物言いさえもが微笑ましかった
――何故言葉の棘は刺さったまま抜けなくなってしまった?

私だけを見てて 
ずっとずっと、いつまでも
そばにいて離れないで、死ぬまで私を好きでいて

無邪気な独占欲が愛おしかった
――いつからそれは束縛の鎖へと姿を変えた?

愛情は嫉妬、微笑は罵倒へ
口を開けば言い争うだけの毎日
もううんざりだ、こんな無意味な諍いは



テーブルの上には剥きかけの林檎と、フルーツナイフが無造作に置かれていた

外は嵐、横殴りの雨が窓に映る二つの影を滲ませる

君はヒステリックに喚き散らし、僕は耐えられずに耳を塞ぐ

雨のせいだ
互いに引き際を見失ってしまった
雨のせいだ、そうに決まっている
終わらない泥仕合にとどめを刺す

泣き叫ぶ君
振り下ろされたナイフ
縺れ合い、奪い合い――奪い取る

君と正面から視線がぶつかったとき……躊躇いはなかった

足元に崩れる君はまるで壊れたマネキンのよう

……僕は望んでいたのだろうか
この結末を



ベッドに横たわる君の横顔はとても穏やかで、全ては悪い夢だったのではないかと錯覚しそうになる

だけど、この手に残る生々しい感触は間違いなく本物で
じわじわと君を侵す毒々しい赤もまた、まぎれもない真実なのだと思い知る

本当なら二人の未来はもっと明るく、もっとあたたかな光で彩られたはずだったのに
今僕の瞳に映る世界は色褪せたモノクロームの静止画像

ただ君を塗り潰す赤だけが異様に鮮やかで、眩しすぎてーー僕は眩暈に襲われ君の傍らに跪く

凍えた指先が捉える君の輪郭はまだあたたかく、混乱に一層の拍車をかける

いったいどちらが亡霊なんだ?
僕にはもうわからない
誰か教えてくれ、亡霊は僕の方なのか?



雨は降り続く――空っぽの心に無数の冷たい矢が容赦なく突き刺さる

雨が見ている――哭きながらのたうつ僕を嘲笑いながら

雨さえ降らなければ――醜い素顔を曝け出すこともなかったのに

雨のせいだ、そうに決まっている――永遠に君を失ってしまった

だけどもしこの雨が止んでしまったら……僕は何に縋ればいい?



THE END


B.G.M.
I've Been Losing You by A-HA
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