短編

□情報屋さんと遊園地
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周りにはいちゃつくカップルや家族連れや中学生や高校生の集団…みんな、わくわくと期待に胸膨らませた、晴れやかな顔をしているが…
「………何でこんなとこいんだろ…」
ここに腑に落ちない、顔の人間が一人。ここはいわゆる、遊園地。そして、なんで何でここにこんな空気の読めない人間がいるかというと…











『遊園地のチケットをもらったんだよ』
『チケット?』
『そ、仕事先の人にね。二枚もらったし行こうよ』
と、差し出されたチケットはかなり有名な遊園地だ。しかも絶叫が多いことで有名な…
『んー…』
『どうしたの?』
『いや、拒否権ないんだろうなぁって…』
『あはは、当たり前じゃん』
人間あそこまでムカつくと清々しいことに気づかされた。












「やぁ楽しさを提供する場所なのに絶叫ばかりだねぇ」
「絶叫系のものが多いですからね」
実際自分は、遊園地が嫌で浮かない顔をしてるわけではなく、すでに絶叫系の乗り物をいくつか制覇した後の疲れが出た顔なわけである。
「臨也さん、また野菜残してます」
今は休憩もかねて昼食中。正直食欲などジェットコースターに忘れてきたのだが…
「また君はそんなことを…遊びに来たんだから楽しもうよ」
「言い訳しないでくださいよ…ちゃんと食べないと」
「君は俺のお母さん?」
「心配してるんですよ」
パスタをくるくると巻いた。臨也さんが食べているのはハンバーグ。付け合わせのサラダに全く手をつけていない。
「結構乗ったよね」
パンフレットを開きながら、呟く臨也さんは、結局サラダに手をつけなかった。
「あと残りはどこですか?」
「んー…あとは…コレかな?」
そう言って臨也さんが指さしたのは、『地獄迷宮回路・廃病院の怨霊』…完全なる、疑う余地のない、お化け屋敷だ…
「………」
「ん?どうした?」
「……お化け苦手です…」
「うん、知ってる。だからわざと」
わざとかい!!まぁそうだろうけど…とりあえず…絶対行きたくない…
「無理です…」
「ダメ」
「絶対無理です…」
「俺いるじゃん」
「いても無理です」
「それじゃあ行こうか」
聞いちゃいねぇ…そのまま強引に手を引かれて、アトラクションの前までやってきてしまった。それらしい廃病院の建物がそびえ立っていた。
「ぅ…」
「リアルだねー」
「い…臨也さん…」
ダメだ…すごく逃げたしたい…
「さぁ行こうか」
「本当に無理なんですって…」
「大丈夫だって。本当に出るわけじゃないんだから」
「だって、追いかけて来たり、大きな音とかするでしょ…苦手です…」
「だから、俺がいるでしょ」












やっぱり流されてるよね…ダメなんだけど…
『まーてー!』
「ぎゃあぁああ!!」
これはもう恥ずかしいとかではなく、縋るように臨也さんに抱きつく。
「落ち着いて。ただの人形じゃない。さっきから叫んでばっかだし」
「こ、怖いんですってば!だから嫌だったんですよ!!ひょわっ!!」
泣き出しそうになりながら臨也さんから離れるが、服の裾をしっかりと握らせてもらっている。
「ほら、もうすぐ出口だよ」
「うぅ…もう二度と来ません…」
お化け屋敷はやっぱりダメだ…と、考え込んでいると、いきなり目の前が真っ暗になった。いや、眼鏡が外され、ぼやけてしまい、かろうじて見えていた視界が、見えなくなってしまったのだ。
「い、い臨也さん何してるんですか!?見えません!」
「ん?やっぱり?目悪いもんね」
やっぱりって…この人は鬼か!怖がってる人間の視界を奪うか普通!!
「か、返して下さい!これじゃ何にも見え…」
ん…?何だ?いつか感じた感覚…
「これで怖くなくなったでしょ?」
そうだ…これは…またキスしやがったこの人はー!!
「っな!」
確かに怖くなくなったが…
「ほら行くよ」
こんな熱い顔じゃ外に出れません!

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