『情報屋さん』

□情報屋さんに連れ回されました
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情報屋さんでバイト始めて、三週間。



やっと、この泊まりでのバイトが慣れてきた。そして、今日は…
「俺に付いてきてよ」
「?どこに…?」
「大丈夫大丈夫。付き合いって言っても、その目的地の離れたとこで荷物持って、待って居るだけでいいからさ」
「はぁ…それならいいですよ。どこに行くんですか?」
お遣い…ではないか…
「これからいろんな人との取引があるからさ、その付き合い」
「…それって自分がついて行ってもいいんですか?」
臨也さんはとても楽しそうな、まるで子供のような無邪気な笑みを浮かべていた。
「池袋だよ」
臨也さんは静雄さんに殺されたいのかな…自分だったら自分殺そうとしている超人が居るところになんか絶対に行きたくはないのだが…
「荷物重くない?」
「大丈夫です。学校に持って行く鞄もこれくらいだから…」
「へぇ、随分重いの持ってくんだね」
黒いリュックを背負う自分を気遣う臨也さん。正直、臨也さんの隣を歩きたくない…臨也さんの綺麗すぎる顔は目立つ…だけど、わざと歩調を遅らせると、臨也さんも合わせてくる。
「やっぱり重い?」
「大丈夫です」
一カ所目、目的地の近くだという書店で待つことになった。適当に漫画や文房具を物色して、30分。携帯が震えた。メールだ。臨也さんの。
〈外に出てきて〉
その一文だけだ。?書店の中に何故はいらないのかな…とりあえず、外に出た。すると、臨也さんが数人のお洒落な女の人2人に逆ナンされていた。
「いーじゃーん、ねー、あたしらと遊ぼーよ」
「オニーサンきれーだし。ねー行こーよ」
「んーどうしよっかなぁ」
…何やってんのかなー…これは待ったほうがいいのかな…と、臨也さんが自分に気づいて、女の人達を置いて、こちらにやってきた。?
「ごめんねー。俺、連れ居るからさ」
と、物凄く自然に肩に手を回された。あれ?何この状況…
「えー!こんな娘がー??」
「そんな娘よりあたしらと遊ぼーよー!」
こんな娘…ときたか。まあ、いいけど…
「アハハ、こんな娘なんて失礼だなー俺の大事な大事な女の子をこんな呼ばわりなんてー…」
ふと、女の人達の顔色が変わった。そして、隣にいる臨也さんの雰囲気と声音も変わった。
「《謝ってくれる?》」
?…臨也さんは何を怒っているんだ?女の人達も顔がひきつってるような
「臨也さん?」
「ん?何?」
向けられたのはいつもの笑顔。女の人達はその隙に逃げていってしまった。
「あ、行っちゃった」
そりゃそうだろうな…とりあえず…
「臨也さん、離れてくれませんか?」
「えー、せっかくだしいいじゃん☆」
「せっかくって…」
とりあえず、それとなく離れると臨也さんはつまらなさそうにした。
「ていうかさ、あの女の人達の言葉に怒りを感じないわけ?」
「は?…あぁ…別に」
「何で?」
「自分がそれくらいの人間だと思ってるからですが」
お洒落もしなければメイクもしない自分が、池袋を楽しげに歩く女の子達から見れば、格下に見えるに決まっている。
「…………君さ…」
「?はい?」
「生きてて楽しい?」
すごい質問だなぁ…
「それなりに楽しいですよ」
「それなりに?じゃあ、今ここで君を俺が刺し殺そうとしたらどう思う?」
またすごい質問だなぁ…この人ならやりそうだけどね…
「叫んだりとかするかもしれないけど仕方ないんじゃないんですか?自分は抵抗も出来ないし」
「………随分と現実的だね」
「そうですか?」
「そうだよ。次行こうか」
何ヶ所かこうして回っていく。4ヶ所くらいでは公園で読書をして待っていた。さっきの書店で買った本だ。と、突如頬に冷たさを感じてビクついてしまった。
「うひゃっ!」
「アハハ、すごい集中力だね。俺が近づいて五分間全く振り向かないんだもん」
未だに速まっている鼓動。そんな中、臨也さんは手に持っていたジュースをくれた。ココアだ。
「コーヒー苦手だよね。何かそういうのは子供っぽいよね。山葵も苦手だっけ?」
「臨也さんだって野菜苦手じゃないですか」
「俺は素直なだけ」
「素直って…だから、身体薄いんですよ」
「薄いって…君、最近俺に容赦無くなってきたね…」
「ちゃんと食べないとダメです」
「そういう君も薄いよ」
「薄くないです。痩せたいし…」
「アハハ、無い肉落とすことはできないよ」
「あります」
「へぇ…どこに?」
「お腹とか、二の腕とか、脚とか…」
「そうには見えないけどねぇ」
「ワンピース着てるからですよ」
バイトを始めてから、本当にワンピースをよく着るようになった。何だか、変なことなんだが、バイトの制服みたいな…
「どれどれ」
ワンピースについて思案していると、いきなり体を引き寄せられて、抱きしめられた。は?
「やっぱり薄いよ君」
「な、な何を…!」
「ん?身体検査?」
何故抱きしめる!?
「は、離れてくれませんか!?」
「ダメダメ。かなり面白いから」
さらにぎゅっと腕に力を入れられる。感じるのは臨也さんの体温と匂い。
「あの…」
「ん?」
「ここ公園です」
「そうだね」
「人目があります」
「そうだね」
「困ります」
「いいじゃない。恋人だと思わせとけば☆」
「困ります」
「真面目だねー…」
と、臨也さんは素直に放してくれた。
「そんなに俺と恋人に見えるの嫌なの?」
「そういうんじゃなくて…」
こんな人間と恋人だと思われては、失礼だ。だから、距離をとりたい…
「君さ、そんなに真面目だと人生損するよ。好きなものは好きって叫ぶくらいに素直にさ」
「素直にって…」
さっきも聞いた…
「じゃあ、臨也さんは何が好きなんですか?」
「ん?




人間だよ」



「?…人間?」
「俺は人間を愛してやまないのさ」
他の人が言ったならば、ただ単にひくだろうが、この人が言うと納得してしまう。人間が好き、だなんて自分とは少しだけ反対だ。
「そうなんですか」
「あれ?こういうの言うと皆大抵ひくんだけどな」
「人の好き好きですから。自分がとやかく言うことじゃありません」
「じゃあ、趣味は人間観察で、この池袋で起こってる、奇怪な事件の黒幕が俺で、それを蚊帳の外から眺めて、巻き込まれていく人間達が壊れていくのを楽しんで見ている。なーんて言ったら?どうする?止める?」
臨也さんは冗談みたいに言うけど、冗談とは思えない、楽しげな表情が浮かんでいた。あぁ、多分これは本当の事なんだろうな…
「…自分には臨也さんを止められませんから、何も言いません」
「また現実的だね。その観察の対象に君も入ってるんだよ?」
「自分も人間ですからね」
「もしかしたら、俺が君を壊すかもしれないんだよ?」
壊す…ねぇ。そんこと言われても、自分にはどうにもならないことをこの人は知っている…
「自分がそれに気づくことは多分出来ません。壊れたら壊れたらです。あと自分なんて観察しても面白くありませんよ」
「言ったでしょ。俺は人間を愛してるんだ。だから、君のことも愛してるんだよ」
告白…というか宣言かな。
「さあ、帰ろうか。日も暮れてきたしね」
「はい」
いつの間にか、あたりは紅くなっていた。早いな。時間が経つの…
「君は本当に普通だね」
「普通ですよ」
「でも、いつかきっとその普通を…」




「俺が《壊して》あげるよ」





(夕陽を背景に)
(臨也さんは紅く笑った)

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