『白澤の不摂生』

□白澤の不摂生−壱−
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「……これは……何事……」



帰り道に何故だか空いている深い深い穴。それを挟んで向こう側には無表情だが満足したような顔の閻魔大王補佐官の鬼灯、その隣には絶句した顔の桃太郎がいた。足元にも三匹ほど動物がいる。
「ずいぶん……賑やかですね」
たれ目に眼鏡、黒髪の少女は呑気な感じでいった。男物なのか上はチャイナ服の大きいのを着ており袖が余っている。下は腰巻きのエプロンをして、何故だか沢山の紙袋を下げている。こちらに気づいたのか鬼灯は穴を挟んだまま挨拶をした。
「おや、狡さん。こんにちは」
「こんにちは。あれ……白澤さ……あの節操なしはどこですか?」
「前者であってますよ!?」
慌ててつっこむ桃太郎。この奇人揃いでつっこむスキルが上がったらしい。
「鬼灯様!この人は?」
と、シロが尋ねた。
「嗚呼、この人は……」
何やら苛ついているのか主である白澤にあるまじき言葉遣いのこの少女は神獣白澤お付きの『山海経の狡』である。
中国において、紀元前に書かれたという地理書「山海経」に見える怪物の一つ。西王母の住む玉山という山に棲んでいる。体つきは犬に似て吠える声も犬ようだが、体表には豹のような模様を持ち、牛のような角を生やしている。因みに珍獣の一つである狡が出現した国は大豊作になるという。
「犬なら僕と仲間だぁ!」
と、足元に飛び付くシロを優しく撫でる姿は本当の姿が怪物とは思えない。
「怪物といっても、実際の性格は違うでしょう。大昔の記述なんてどこでどうねじ曲げられていてもわかりませんしね」
「確かにそうですね。お伽噺とかも時代と共にソフトになってますしね」
お伽噺の主人公本人がそう言うとかなり現実味がある。
「そういえば…狡さん、その紙袋は…」
「これ?これは謝罪の粗品…」
「謝罪?粗品?」
「白澤様の不摂生の可哀想な犠牲者、ここ最近の女性九人の為の」
その穏やかな顔の向こうに黒い影があるように見えたのは桃太郎の幻覚なのかもしれないが寒気が走ったのは確かだった。
「こ、こう…」
穴から息も絶え絶えな声が聞こえた。出てきたのは吉兆の印として崇められるはずの神獣であった。
「その…お金は?」
「嗚呼、お店のお金に手を出した訳ではありませんよ」
穴からまだ這い出てない状態の白澤をまるで池の鯉を眺めるかのようにしゃがみこんで眺める狡。
「え?自腹?」
「いえ、白澤様がつい7日前ほどに『最高傑作の金丹ができた!』と申されてたものと、媚薬、お香、その他諸々の効果な薬を売りさばきました」
「んなっ!??あれを!?三日三晩、楽しみに作ってたあれを!?」
「はい。何か問題でも?」
「問題も何も、あれは僕がどれだけ努力して、作ったか…君は僕のお付きであって…!!」


「 何 か 問 題 で も ? 」



念を押すような繰り返される言葉。それに地獄の底から響くような声音に白澤はひきつった顔で首を振った。
「貴方は薬に関してはかなり優秀であります。ですが、それ以外のことを疎かにしすぎて空っきし。フォローする身にもなってください」
立ち上がりがそう言った。そして鬼灯に向かって頭を下げた。
「鬼灯様、主が無礼を働き、申し訳ありません」
「いえいえ、そこの堕獣がやったことであって、貴女の落ち度ではないですよ」
「君ら、僕を何だと思ってるの!?」
「「ゴミ」」
「そこハモるな!!」















鬼灯達がやっと帰ったことでどっと疲れが出たらしく、番台に頭を伏せる白澤。
「僕の努力…」
「知りません」
背を向けたまま、ごりごりと石臼で薬草を擦る。どうやらご機嫌斜めのご様子だ。
「狡ー悪かったてばー」
「その言葉はここ何千年で何回目ですか…」
因みに桃太郎は配達中。
「じゃあさ、今日1日大人して、狡にご奉仕するよ。あ、ご奉仕の内容は何でもいいよ。お手伝いでも夜のお供も…」
「言わせねぇよ!!」
だんっと杵を机に置きながら叫ぶ。見た目に反してつっこみは早い。
「たくっ、鬼灯様のとこにでも強制送還されて拷問という名の調教されてくればいいのに…」
「その呟き全て聞こえてるよ」
「うち素直なので」
「もっと可愛い素直なら感激なのに…」
全く反省の色を見せていない白澤にため息をつく。何千年もこの主のそばにいるが、一向に自分の不摂生に対しての反省の色を見せない。
「君も、何千年も一緒にいるのに僕になつかないね」
「うちペットじゃないんですけど」
擦り終わった薬草をまとめて、決まった棚にいくつか入れる。ついでに他の薬をいくつか取る。
「かわいくないねぇ」
「かわいくないですから」
「否定してよ。本当は可愛いのに。寝言でよく『甘味…大量…歓喜』っていってるくらい…」
ピポパピポ
「あ、すみません鬼灯様お忙しいところ。主にセクハラ発言されたのですが奈落に堕としていいですか?」
「え!?そこまで!?てか、いつの間に電話番号交換したの!!?」
 

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