進撃の巨人連載
□9 舞い降りる翼
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調査兵団においつかれた私たちは予定より1時間も早く出発することを余儀無くされた。
ユミルを作戦に引き入れ、クリスタをさらった。
助けてくれと叫んだユミルに、クリスタは何があってもユミルのみかただって言った。
私には、そんなクリスタ…ヒストリアの気持ちが痛いほどよく分かった。
みんなはエレンを取り返そうとベルに説得を始めた。私にも頭を冷やせといった。
みんなとの苦しくても楽しい生活が脳裏に蘇って来た。
出会ったあの日の出こと、教官に怒られながら訓練したこと、質素な夕食をサシャに食べられてしまったこと、
ジャンとエレンがいがみあうこと、アニに吹っ飛ばされたライナー、ベルの寝相があまりにすごくて私をわざわざ呼びに来るコニー、
いつも心配してくれたクリスタと、人の本質に探りをいれてくるユミル、いつか壁の外でバーベキューをしようって言ったのは誰だっけ?
ああ、それは私だ。
私が捨てようとしているものは、あまりに大きかった。
「謝る資格なんかない…けど、頼む…誰か頼む、お願いだ…誰か僕らをみつけてくれ」
でも私は、それでもライナーとベルを選ぶの。
ごめん、みんな。
「アニをおいて行くの?」
「悪魔の末裔が!!根絶やしにしてやる!!」
「人のために生きるのはやめよう。私たちのために生きようよ!!」
「ゴエンア…」
「ユミ…ル…?」
そして、結局彼らは、誰かを思うあまり、おとしていく。
世界はなんて、残酷なんだろうね?
――ウォール・マリア シガンシナ区――
逃げ切った私たちは、壁の上に寝っ転がって夜空を見上げていた。
月の色は冷たい。
「ユミル」
「あ?」
「このままくればお前はまず助からないんだぞ…?逃げるなら今だ。」
息が整った頃、ライナーが言った。
「 カヤ、お前もだ。状況が悪くなった今、お前もどうなるかわからない。いまならユミルと…」
「私はいいんだよ、ライナー」
「私ももう疲れたんだ。今更なにいってやがる馬鹿野郎。もういいんだよ…」
もう一度、冷たい月をみた。
「ユミル、なんで僕を…助けてくれたの?」
「お前の声が聞こえたからな。借りを返しただけだ。
お前らが私の悪夢を覚ませたようなもんだからな。それにおなじ境遇だ。
気持ちはわかる。」
ユミルは言ってから、私をみた。
「クリスタはいまもきっと、ユミルのこと思ってる。これからもずっとね。」
「ああ…自分じゃどうにもならない。それがどんなに苦しいかわかる。
そんで、その苦しさから解放してくれるものも私は知ってんだよ」
ユミルは、ただまっすぐ私をみただけだった。
「ライナー、私にはみんなの気持ちわかんないし、簡単に分かっていいようなものじゃないとおもう。
けど私にはライナーたちしかいないんだよ」
「カヤ…」
「ねぇ、私はみんなを見つけるよ。だからずっと一緒だよ?
世界が敵でもいいから、ずっと」
私は調査兵団のマントを取り払って、夜空に投げ捨てた。
「…壁の中に居ても、世界は敵だったろう?」
「それもそうだね。ならいままでと変わらないよ」
ただひとつ、明確に変わること。
それは。
「ライナー、ベル、ユミルも。
私の心臓、みんなにあげる」
自由の翼は、冷たい月に照らされながら空を舞い降りていった。
END