進撃の巨人連載
□8 伝えることば
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出発まで未だ、時間があった。
私はエレンからなるべく離れたところに座って空を見た。
空は綺麗だ。
太陽に照らされて金色になった雲がライナーの髪の色にそっくりで、私はそれが好きだ。
だけどその下で寝そべる巨人は気持ち悪い。
もしここから飛び降りたらあの口の中に入っていくだろう。
そう考えたら身震いした。
「カヤ」
「ライナー…」
「怖い…か…?」
「なにが?」
「何って…」
「あの下にいる巨人はこわいけどね」
本当は一つ向こうの枝から声をかけるライナーが言いたいことの意味はわかっているけれど、わざと気が付かないふり。
「でも、あのとき助けてくれたのがライナーで良かった。
一度、あの鎧の巨人はライナーに似ていると思ったことがあって。
もしちがかったら私最低だったね」
「似ているって、顔か?」
「ううん。なんにも言わずに助けてくれたところが」
ちょいちょいと手招きするとライナーは身軽に飛んでこっちまでやってきた。
表情は険しい。
もともといつも眉間に皺が寄っているけれど、それよりももっと険しかった。
「――あのときは、かなり焦ってな。
お前がいなくなっちまって探し回って…そしてたら巨人に囲まれててよ。
今変身すべきじゃないとすぐに分かった。だけど…いずれ裏切ることになると分かっていても、お前を見捨てるなんて無理だった」
「ベルに怒られたんじゃない?」
「ああ、珍しくすごい顔で怒られたよ」
「おかげで私は助かったけどね」
ライナーが遠慮がちに隣にすわった。
切ない。
そんな風に遠慮しないでよ。
私はライナーの替わりに、遠慮しないでライナーにもたれかかった。
「ねぇライナー、覚えてる?初めて私がライナーを投げた日のこと」
「っ…ああ、鮮明にな」
「あれね、アニに教わっていっぱい練習したんだ。
ライナーのこと投げたら、ライナーに覚えてもらえるかなっておもって。
覚えてくれた?」
「…お前は俺を投げれるようになるまで何度か俺と組み手をしただろう?
そのときからもう覚えていたよ、お前のこと。
だいたいこんなでかい俺にお前みたいなヤツがわざわざ自分から声をかけるとは思わなかったから、初めて話したときのことも覚えてる」
「え、じゃあ頑張ったかいなかったじゃん!」
「そういうなよ。俺はそれからお前のことが気になってな。
正直組み手を挑まれると気が気じゃなかった。
万が一思い切り投げ飛ばしちまったら、と。
俺は組み手が得意じゃなかったがお前くらいの小さいヤツならなんなく持ち上げられるだろう?」
「ああ、そっか。だからライナーとの組み手ってあんまり痛いイメージがないんだ。加減してくれてたんだね」
「ああ。でもその加減していた相手に投げられるとは夢にも思わなかったな」
ライナーがふっと、懐かしむような笑みを浮かべた。やっと…笑ったね、ライナー。
「夢にも思わないと言えば、お前からの告白も夢のようだったな」
「えー、私結構アピールしてたんだよ?」
「むしろ兄貴みたいに思われているんじゃないかと思っていたから」
「それは失敗だったなぁ。けど、結果的「俺もそう思ってたんだ」って言ってもらえたとき、ずっごくずっごく嬉しかった。
でもライナーは優しいからNOって言えなかっただけじゃないかってすごく不安だったんだよ」
「そうだったのか?」
「うん。でも…ライナーからキスしてくれたときに、安心したなぁ」
普段なら恥ずかしくて話せなかったことだけど、今は何となくお互いさらけ出して話せる気がした。
いつのまにか私の手はライナーに握られていた。私はそっと握り替えした。
「ライナー」
「ん?」
「何も言わずに、私を連れて行ってね」
「…ああ」
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