進撃の巨人連載
□7 瞳に映る世界の終わり
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「ライナー、ベル。二人が起きたよ」
「っ…ああ」
平和で静かな時間も束の間。
エレンが目を覚ました。
ユミルは後でちゃんと説明するって言えば傷を治すことに専念して静かにしてたけどエレンじゃそうは行かないはずだ。
うっすら目を開いたエレンは覚醒したようでハッと辺りを見回した。
「おう、エレン。起きたか」
立ち上がりながらいつもとおなじように声をかけるライナーを、エレンはわけがわからないと言いたげな目で見ている。
ライナーはいたって平然として、エレンの腕を噛みちぎってしまったことを謝罪した。
そしてユミルは腕に噛みつこうとするエレンを止めて、この状況がどういうことか、今逃げることはできないと説明をした。
「そろそろ教えてくれよ。
あんた達はこれから私らを、どうするつもりなんだ?カヤのことも…」
そっか、ついてきた私にもこの話は大事な話なんだ。
そのことにやっと気がついて、前を見たらユミルと目があった。
「あんた、やっと気がついたな。自分にとっても大事な話だって」
「…うん。まぁ、でもね。確かに大事だけど、個人的にはそうでもないかもね。」
「はぁ?」
「ライナーが行くところについて行くだけだから、迷惑かけないように把握できればいいかなぁ、みたいなね」
「はっ、ゾッコンだね」
「そうだね。ライナーにも鎧の巨人にも」
ユミルは、片方の眉を不快そうにつり上げた。誰がなんといおうと構わないよ。
私はもう一緒に行くって決めたから。
「カヤ…俺もお前にゾッコンだからな」
「ライナー話を戻すよ」
あ、ごめんユミルが怖い顔してる。
「とにかく、お前らには俺たちの故郷に来てもらう。
お前らがおとなしくするとは思えんがユミルの言うとおりここは巨人の巣窟。
互いに戦っても弱ったところを食われるだけだ」
「どっちみち夜までは動けない」
エレンは悔しそうに、もどかしそうに歯を食いしばった。
アルミンみたいに考えることにしたのかな。
いっちゃ悪いけどエレンには無理だろうな。
「にしても、干からびそうだ。クソッタレな状況だね」
ユミルは残っている手で顔を仰ぎながら言った。
確かに、お腹も空いたし喉も渇いたし、眠い。
さっき一睡もなしに二人を見張っていたのがうそみたいだ。
「…そういや、昨日の午前からだったか」
「巨人が湧いた時から?」
「ああ。ずっと働きづめで飲まず食わずだ。カヤ、お前なんか一睡もしてないだろう?」
「私のことは気にしないで」
「悪いな。まぁでも、幸い壁は壊されてなかったんだからひとまずは休ませてもらいたいもんだ。
昇格の話はそのあとでいい」
…え…?ライナー…?
「そんくらいの働きはしたと思うぜ…俺たちは。
あのわけのわからねぇ状況下でよく動けたもんだよ。
兵士としてそれなりの待遇と評価があってもいいと思うんだがな…」
「ライナーさんよ…何をいってんだあんた…?」
「ん?なんだよ。別に今すぐ隊長に昇格させろなんていってないだろう?」
「そう……ではなくてだな」
ライナー?ねぇ、何いってるの?
ライナー、もしかして…
「あぁ、そういやあん時の大砲どっから持って来たんだ?
あの時は本当に助かったぜ。
そんでもって、取り敢えず休みをもらったらたまにはカヤとゆっくりすごしてーー」
「おい!」
とうとう、エレンが大声を上げた。
「てめぇ、ぶざけてんのか?」
「何…怒ってるんだよエレン。俺が…何かマズイこと言ったか?」
ライナーのこの声は、友達を怒らせて焦ってる…そういう風に見えた。
「殺されてぇなら普通にそう言えよ!」
「まてよエレン…ありゃどうみても、普通じゃねぇよ」
ユミルはそういってベルを見た。
「ベルトルさん、何か知ってるなら…いい加減どうにかしてやれよ」
「ベル…どういうこと…?」
「ライナー…君は…兵士じゃないだろ?僕らは戦士なんだから」
ライナーは何かを思い出したみたいに、目を大きく開いて、顔を歪めた。
「ああ…そう…だったな」
「ライナー、記憶が…」
「ご名答。おそらく、敵になる人間を命がけで助けたり、矛盾したことをやってるのにこいつは無自覚だったんだよ。
なんでそうなっちまったかわからんが、本来は戦士だったが、兵士として生活するうちにどちらが本来の自分かわからなくなった。
あるいは罪の意識からの現実逃避。
結果心の分裂、記憶の改竄…そんな所か?」
こめかみを抑えるライナーと、膝を抱えて怯えたような顔をしたベル…二人の姿に涙がこみ上げて来た。
そうだよ。
だってライナーは、まっすぐな人だから。
そして友達思いなベルは、ライナーをこんな風にした状況がこわいんだ。
「ライナーっ…」
「来るなカヤ、俺は…俺は」
「ごめんね今まで気づいてあげられなくて…ずっとつらかったんでしょ?ねぇライナー、ベル」
「カヤ、安心してよ。ライナーが君を想う気持ちに偽りはないんだ。」
「ベルは?ベルは、」
「僕も!僕も君は友達だって思ってる!嘘じゃないんだ」
「ベル…」
「ふざけんじゃねぇ、何で被害者面してんだよお前ら」
「エレン…」
「友達?本当にか?」
「確かに騙したよ…でも本当に仲間だと…思ってた」
「俺が母さんの話した時、何て思った?俺の母さんはお前のせいで逃げられなくなったんだぞ…?」
「気の毒だと…そう、思った」
「お前らな…お前らは兵士でも戦士でもねぇよ…ただの殺人鬼だ!」
「誰が…人殺しなんてしたいと思うんだよ!人から恨まれて当然のことをした。
だけど、罪を受け入れきれなくて、兵士を演じてる間は…少しだけ楽だった」
「ベル…」
「なんだよ…なんだよお前ら人間らしく悩んでんじゃねぇよ!お前らは人間じゃねぇ!
世界を地獄に変えた人殺しだ!」
「その人殺しに何を求めてるんだよ!」
「黙れぇえ!!」
私が、叫んだ。
むなしい叫びは空気を伝って響いていった。
みんなが、私を見ていた。
「うるさいうるさい、もう言わないで!私はライナーとベルのみかたなの!エレンの苦しみなんか関係ない!」
「お前まで…!」
「だって!両者の苦しみは比べられるものじゃないよ。
私には何が起こってるか分からない。
だけど、どんな理由であれ私の恋人と友達を傷つけるヤツは誰だろうが許さない!」
「そんなの、俺だって同じだ!」
「ならもう私たちは敵なんだよ、エレン」
エレンは、初めてあったときのような世界の終わりを見るような顔になって、私を見ていた。
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