進撃の巨人連載

□5 君のてのひら
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私は震える体にむち打って、転びそうになりながら壁に上った。

そこは悲惨だった。壁の一部は崩れ、あの日見た光景がよみがえってきた。

目の前で腕を振って壁を壊して行く、この人類の仇が…ベル?

壁の向こうで巨人化したエレンを吹っ飛ばしたのが、ライナー…?

わからない。

わからないわからないわからない。

わからないけれど、私は2人が怖くなかった。

人類最大の的なのに、怖くないのだ。

そして私の脳裏に、あの鎧の巨人が浮かんでくる。

食べても良いっていったのに、なにもせずにそのまま走り去るあの姿を、私はもっと前から知っていたきがする…。

あれは…ライナーなんだ。

いつも助けてくれるのに見返りを求めない…ライナーの姿なんだ…。

私は走って、立体起動装置で壁を降りた。


「ミカサやめて!」


驚くことに私は叫んでいた。

アニみたいに、二人もミカサに落とされるんじゃないかと思ったら心の底から恐怖がわき上がってきた。

ミカサが鎧の巨人を切りつける。

だけどその攻撃はきいていないようで私は安心した。

そして起き上がったエレンが鎧の巨人に一発食らわせたのを見て、心臓が冷たくなった。

捧げたはずのこの心臓が、冷たくなったのだ。


「やだ…やだライナー!ライナー!」


ねぇアニ、なんでよりによってエレンにあの技を教えちゃったの?

ライナーが、倒されて…


「ライナァァア!」


腕が、千切れた。

巨人なら再生できるって知っていても、私の心は酷く痛んだ。

でもここで私にはなにができるのだろう。

ただ傷つけられるライナーを見るしかできない。

傷つけられてるのは仲間であるエレンだって同じなのに私はそっちのことなんかちっとも気にならなかった。

そんな自分が怖くて、でもそんな自分のおかげで私は自分がどうしたいのかすぐにわかった。

ライナーとベルが人類の敵でも、私の敵じゃない。


私は走った。

走って

走った。


「ライナー!死なないでライナー!」

「カヤ!そっちは危ないぞ!」

「エレンこの野郎!ライナーを離してよ!

ライナー、ライナー!がんばって、ねぇ!」


この叫びが誰かに聞かれて、殺されることになってもかまわないから。

だから。


〈オオォォオォオオオ!!〉


私がそこにつくと、ライナーが叫んで上からベルが落ちてきた。

まずい、私…死んじゃう。

でもいいかな?

ライナーやベルがいないなら、死んでも。ライナーと目があった気がした。

ライナーは最後の力でエレンを押し返しながら、私の方へ手を伸ばした。

あれ、私だって分からないのかな?

ベルが落下してきて体を蒸発させた。

あっつい。

だけどそのあつさが何かによって払われた。

目を開けたら大きな手が私におおいかぶさっていた。

ライナー…。

私はその手にすがり付いた。

固くて熱いけど、ライナーの手のひらだってなんとなく感じた。

手のひらがどくと、青い空が見えた。ライナーはエレンのうなじに噛み付いて、それから私を見た。


「はぁっ、はぁっ、カヤっ…なんでここに…」

「ベルも…」


私は人の姿に戻ってユミルを抱えたベルを見てから、またライナーに視線を戻した。


「ライナー私は…さっきね、エレンじゃなくて鎧の巨人のこと応援してたの。

無意識に感じてた。

鎧の巨人が傷つけられるのが痛かった。

だから、私も行きたいよ。

もしも無理なら、ここでライナーに殺されたい」

「カヤ…」

「ベル、私アニだけじゃなくて2人までいなくなったら、生きていけないよ」


ライナーはじっと私をみてから、手を動かした。

殺すのかな?

だけど手は私の方に差し出された。


「いいの?」


ライナーが頷いたから、私はその手に飛び乗った。

ベルも立体起動装置でユミルを担いだままライナーの方に乗った。

私はライナーの手のひらの中から、遠ざかる壁をみつめていた。







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