進撃の巨人連載
□1 巡る朝
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「アニ!!」
叫んで、飛び起きた。
部屋はシンとしている。
日が差している。
朝だ。
ぼーっと部屋を見回して、起きあがった。夢を見た。
長くて短い。
まるで訓練兵だったあの2年間のような。
親友だったアニが女型の巨人だと判明して、彼女が地下室に捕らわれて少したつ。
「アニ…」
彼女はもう、いない。
分かってるけれど時々彼女を夢に見る。
彼女は人類の裏切り者だけど、私はどうしてもそれに納得できないままだ。
だからきっと夢を見るのだと思う。
そして私も多分、人類の裏切り者だ。アニにあの指輪をあげたの…私だったから。
とにかくもうこんな事は日課のようなことなので私は特に動揺もせずに着替えて、食堂に向かう。
「よぅ、カヤ」
「おはよう」
「…ぉはよ」
恋人のライナーと親友のベルトルトが手を振ってよこす。
私は二人の前の席に腰掛けた。
あ、やばい隣サシャだ。
アニだったら無情にもパンを見せつけた後で自分で食べてしまうけれど、私は時々おれてちょっとだけ分けてあげちゃう。
…ああ、またアニのことだ。
「…カヤ」
「ん?なぁにライナー」
「…また見たのか?」
「…うん」
「そうか」
ライナーは一言そういっただけだったけれど、テーブルに投げ出された私の手を、その大きな手で捕まえて握ってくれる。
あったかいなぁ。
「大丈夫だよ、もう慣れたし」
「おういう問題じゃあ…」
「あ、ライナーお前ちゃっかりしやがって!」
「カヤの手握りやがって、みせつけてくれるぜコノヤロー!」
ライナーの言葉は陽気な仲間達にかき消される。
ライナーは思い切り眉間に皺を寄せた。それが楽しくて、少し笑った。
そういえばベルは夢に見たりしないのかな。
「ベルは大丈夫?」
「僕は別に…」
「残念だけど、私にはバレてるからね」
「!?僕は――」
「おいカヤこいつらをどうにかしてくれ!」
「ふっふっふ、君たちあんまり騒ぐとライナーのホモがめざめちゃうだろう?」
「おい!真面目にやれ!」
こうやってみんなと騒ぐときだけは少し楽だけど、やっぱりアニがいない穴は埋められない。
まぁ憲兵団にいっちゃってからはなかなか会えなかったけれど、二度と会えなくなった今、そのとき以上に心に開いた穴は大きかった。
仲間もいるし、恋人のライナーも、もう一人の親友ベルもいる。
だけど「アニ」が満たしてくれた心の部分は、他の人には埋めることが出来るわけはなくて。
『ねぇ、アニ!』
『どうしてあんたは私につきまとう?』
『つきまとってないけど…だって仲良くなりたいし』
『友達ごっこならお断りだね』
『えー。良いじゃんか別に!じゃあ、ライナーの投げ方を教えてよ!』
『…』
『じ、実を言えばね、私ライナーが好きなんだよね』
『だったら投げてもらいに行けばいい。それよりなんでそんなことを私に言う?私の記憶じゃあそんな噂は流れていなかった』
『だってアニに最初に言ったからね』
『はぁ?』
『アニは私の親友になる予定だから良いんだ』
『…』
『それでね、投げ飛ばして「え、なんだこいつ!」って思わせて、名前覚えて貰いたいんだぁ』
『…それは私の技術を教わるために私を利用するのかい?』
『ちがうって!それとこれとは別の話なんだってば』
『あれ?アニが隣に座ってる!』
『…』
『とうとう私と友達になってくれたの!?』
『…たまたまだ』
『なぁんだ』
『カヤ。今日の組み手は私とだ』
『え、そんなぁ!無理だよ!だいたいおかしいよ私とアニが組むなんて!』
『無理じゃないさ。それに一緒に組んだっておかしくない。友達…ならさ』
『あっ…アニ!』
『っじゃ、じゃあ行くよ』
『あ、まってたんま…いやぁぁああ!!』
『ねぇアニ。この指輪あげる!』
『…?刃物はいってるじゃないか』
『護身用だよ!ほら私のも――いっ』
『ばか。早速けがしてるじゃないか。貸しな』
『あ、それは私のヤツ!刃物とらないでよー意味無いじゃん!』
『ほら、しっかりしな!』
『ううっ』
『ライナーに言うんだろう?』
『う、うんっ』
『ならいってきな!』
『いやぁ、それにしても今日の女型?っていうのかな?怖かったよね〜』
『……』
『アニ?』
『カヤ、あんたは何があっても…みかただよな?』
『どうしたの急に?女型が怖くなっちゃった?』
『いいから!』
『…アニ?…なんかよくわかんないけど、たとえばもしも女型の中身がアニだったとしても、私アニのみかただからね』
『バカだねあんた。もし私が女型だったら、私は人類の敵だ』
『人類の敵でも、私の敵じゃないし…ってアニ!?急に抱きついたりしてどうしたの!?』
『うるさいっ…』
『ア…ニ…?』
『落ちて、アニ』
『ミカサっ…やめてよミカサ…!』
「アニ!!」
そうして朝は、巡ってくる。
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