イナイレ長編

□8 恐怖のサッカーサイボーグ!後
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 試合再開のホイッスルが吹かれた。

あたしは今度こそ晴れ晴れした気持ちで、グラウンドに立っている。

決める。ここまで迷惑かけたぶんも。

あたしは迷い無く上がって言った。


「風丸!あたしにちょうだい!」

「こんどこそ、頼むぞっ!」

よし、良い位置でパス。でも前には敵が二人…でも行ける。

「ストームターン!」

「!?」

「なにっ!」

見たかこら!そんで、いくよ杉森!

「お前のシュートも、データにない…!」

「行くぞ!サンダートルネーード!!」


兄ちゃんが、あたしに教えてくれた最初で最後の必殺技。

兄ちゃんはGKなのにあたしのためにこれを考えてくれた。

そのシュートはイナズマのようにゴールネットに突き刺さった。


<ゴォーーール!ついに!ついに同点に追いつきましたぁ!>

「っしゃああ!」

「やったぞ!」

「見たかこんちくしょうめ!って、喜ぶのはまだ早いんだからね!さっさとキックオフするよ!」

「つめてぇなお前は!」

「まぁ、それでこそカヤだな」


ありがと、兄ちゃん。

いつまでも引きずってたらきっと兄ちゃんも悲しいよね?

あたしは、これからも兄ちゃんに貰ったこの技で、みんなでサッカーするから。

まぁ、今は感傷に浸っている場合じゃない。

キックオフすると向こうも慌てたように一気に攻めてきたから。


「行くぞっ、パトリオットシュート!」


やばい、ディフェンスには間に合わない。

けどあたしが間に合わなくてもみんながいる。

そして、声は届く。


「守そのまま前に出て、豪炎寺も!」

「何をする気だ紺野」

「そのまま二人でシュートするのよ!」

「なに!?」

「あたしを信じて!」

「っああ!いくぞ豪炎寺!」

「うぉぉおお!!」


決まった!

二人は同時にボールを蹴った。

本当はちょうど良い威力であたしのところまで来ればそれをあたし決めればいいと思ったけれど、そのシュートの威力は予想以上でそのまま杉森を突き飛ばして2点目になった。


「そうか!稲光修練場での特訓が、あたしたちの身体能力のレベルをあげてたのね!だからあんな威力シュートが出たんだ!」

よし、この調子でいけば勝てる!

「竜吾、豪炎寺シュート!」

「ああ!ドラゴントルネード!」


これで決まれば油断は禁物だけど勝ちは決まりだ!あたしはゴールを見た。

そしてすぐにその早とちりを取り消した。

杉森の目が、光っていた。


「俺は…俺は!負けたくないいぃぃぃい!!うおおおおお!!」


シュートポケットがドラゴントルネードを防ぐ。

とうとう、やる気になったんだね。杉森。


「最後まで戦うぞ、みんな!」


彼の目はもう、サイボーグの目じゃなくて、ただ負けたくなくて戦う一人のサッカー選手の目だった。

そっからは、怒濤の試合が続いた。打って打たれて、防いで防がれて。

あたしも全力で彼らと戦った。

それはまさに、「サッカー」だった。

そして下鶴と豪炎寺が衝突して、ボールは杉森にわたった。

本当ならばここでホイッスルが吹かれて二人の手当がされるはずなのに、誰もがこの試合に引き込まれていた。

試合は続いていた。


「キャプテン…」

「っうぉぉおおおお!」


杉森が走り出した。

FWを、MEを、DFを抜いていく。

あたしも杉森を止めにかかった。

だけど最後の力を振り絞る杉森の動きには、ついて行けなかった。


「行くぞ!えんどぉぉぉおお!!」

「来い!ゴットハンド!!」


すさまじい勢いで打たれた杉森のシュートは、砂埃が舞う中やっと回転を止めて、守の手の中に収まった。

静寂の中にホイッスルの音が響き渡った。


<ここで試合しゅうりょーう!準決勝進出を果たしたのは雷門だあ!>


グラウンドには、御影の生徒達からの声援も聞こえてきた。

良い試合だったと、そう思わせてくれるような。

きっと御影の生徒にも伝わったんだ。サッカーのすばらしさってヤツが。

…――って、ああ!しまった豪炎寺のことほったらかしだっ!


「ご、豪炎寺無事か!」

「紺野…俺は大丈夫だ」

「ほら肩かしなさいよ」


しゃがんで豪炎寺に肩を貸して、ゆっくり立ち上がった。

耳元で豪炎寺が「よくやったな」なんて上から目線にいってきた。

でも嬉しかったから、頷いた。


「お前の兄さんもきっと、誇らしく思ってる」

「そう、だといいな」


そういって顔を上げたら、下鶴に肩を貸して立ち上がった杉森と目があった。

その後ろから、守達も集まってきた。


「杉森…」

「剛とは呼んでくれないのだな」

「あら、呼んでもいいわけ?」

「ああ、良い試合だったから。あのシュートはしびれたな」

「だろ?あたしの自慢の人から貰った技だから」


口元をゆるめた剛は、やりきったと言いたげな表情だった。


「杉森!」

「円堂…」

「また、サッカーやろうぜ!」

「…ああ!」


二人のキャプテンが握手をすると、歓声が高まった。

晴れた空を見上げてから、私たちはお互いの戦いを賞賛し合うように礼をした。

本当に良い気分。

あたしはつい豪炎寺の怪我のことも忘れて飛び跳ねた。


「っ痛い」

「あ、ごめん!」





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