イナイレ長編

□8 恐怖のサッカーサイボーグ!中
1ページ/1ページ


「どうする?俺も上がろうか?」


後半が始まって、やはり御影専農は攻めてこない。

しびれをきらせた飛鳥がそういうのが聞こえてきた。

いや、DFでしかも一番後ろの飛鳥がいっちゃったらあぶないでしょうが。

だけど守はやっぱり奇想天外な動きをはじめた。


「待ってても来ないなら、行くしかない!」

「えっ、円堂!?」

「守!?馬鹿どこ行くのよ!」

「シュートだよシュート!」


ば、ばかじゃないの!

飛鳥めちゃくちゃ焦ってるけど!なんて予測不能な…でも、そうか。

予測不能なんだ、これが。

こういう動きがこの試合で、勝利に繋がる…!


「守パス!」

「ああ!」


いい!守からのパスはやっぱ気持ちいいなぁ!

あたしは眼前に迫った敵を切り返しで抜いていく。

よし、敵はこっちに引きつけられた。


「行け守!」

「おおおおおお!!」

「ない…お前のシュートのデータは…ないぃい!」


動揺した杉森の反応が一瞬遅れる。

でもやっぱり実力がある杉森はすぐに飛び跳ねてボールをキャッチした。


「くそぉおお!」

「おっしぃ〜!」

「――なぜお前が攻撃に参加するのだ」

「そんなん点とるためにきまってんじゃん!」

「そうだ!それがサッカーだからだ!くぅ〜!久々のシュート、気持ちよかったぜ!」


ふふふっ、杉森ってば唖然としてる。

あたしはこいつのこういう顔が見たかったんだ!

あ、やべ竜吾が怒ってる。はやくもどろ。

杉森のキックで試合が再開するとようやく御影専農が攻めてきた。

よーっしゃ、守もゴールに戻ったし、ここらで一丁必殺技を見せてやろうじゃないの!


「壁山こっち!」

「はいッス!」


さぁ、どう抜いてやろうかな。そう思って、私は走り出した。

向こうの選手がスライディングを仕掛けてくる。こんなもの、飛鳥のキラースライドに比べたら…


<ああーっと紺野、ボールを渡してしまったぁ!あのテクニックを有する紺野が、どうやらミスをしてしまったようです!>


あ…れ…?


「紺野さんどんまい!」

「お、おうごめんね!」


緊張で足でもすくんでる?

でも、さっき上がったときは大丈夫だったよね…?

よくわからないけれど、とにかく上がっちゃえばドリブルなしでシュートに行けるし…なのに。

なのに足が、動かない。


「カヤ!」

「うっわぁ、ご、豪炎寺!」


竜吾からのパスも、あわてて豪炎寺にパス。あたしが今いるポジションは、MF。

だから別段シュートに行かなくてもおかしくはないし、パスはちゃん通った。

だけど、これ…あたしのサッカーじゃ、ない。


――ああ、あたし怖いんだ。

このだだっぴろいグラウンドが、眼前に迫る敵が。

私は、キーマンなのに…すべきことが有るはずなのに。

交代した少林寺の分まで、走る義務があるのに。


「うわっ!」


そして、下鶴がマックスにスライディングをして、マックスが飛ばされて呻くのを見た瞬間に、あたしの足は止まってしまった。

それからのあたしはDFの位置まで下がってボールカットとパスをするだけ。

そして、競り合いの中、あたしは敵に強く当たられて頭を強打した。


「あっ――」

「カヤ!」


くそ、あいつ強くぶつかってきやがって。

軽く脳震盪でもおこしたのかな。

視界がぐるぐるして気持ち悪い。

ホイッスルが吹かれたから多分、試合はいったん止められた。


「カヤ…!」

「ごめっ…だいじょぶ」

「大丈夫って…体震えてないか?」


豪炎寺に肩を触られて、おもわず大きくはねてしまった。

おどろいた豪炎寺の手が遠ざかっていく。

っ…あたし…震えてたんだ…


「無理するなよ」

「ちが…違う…あんなのなんてことないの」

「でも…」

「守!ねぇ守!」

「カヤ…?」

「あたし…あたしに渇いれて…!お願い!」

「お前…まさか…」


ああ、なんてことだ。こんな情けない事って有る?


「まだ、サッカーが怖いのか…?」


あんな偉そうにみんなをまくし立てて、帝国戦でも活躍したし、けど。

あたしがボールを蹴るときは、いつだって守が近くにいたんだ。

一人になったあたしは、やっぱりまだ怖かった。


「サッカーがこわいでヤンスか?」

「なにいってんだお前は」


やっぱり…あきれる、よね?


「紺野」

「豪炎寺…」

「俺をこのチームに連れてきてくれたのはお前だ。

お前はいつだってこのチームのために動いてきた。それはグラウンドでも変わらないだろう?」

「でも…あたしやっぱ、一人じゃなんもできないんだ。

守がいないと足がすくんで、本当の意味で問題を克服できてないことにも気が付かずに…あたしは――」

「…ひとりじゃなんもできねぇだと?」

みんなが困惑している中、竜吾が地をはうような声でそう繰り返した。


「竜吾…?」

「なんだかしらねぇが、お前は円堂がいないと一人なのかよ。

俺は、俺の後ろに円堂がいたら二人になって、隣にお前がいれば3人になると思ってた。

でもお前は、すぐ後ろに円堂がいれば二人なのに、そこをはなれたら一人になるのかよ。」

「――!」

「お前の周りには俺たちがいるだろうが!」

「そうだぜカヤ。俺とお前は友達じゃなかったのかぁ?」

「だとしたらひどいでヤンスね」

「まったくだ」

「そんな風に思ってただなんて、見損なったぞ紺野」

「っ…みんな…!」


みんな呆れるような、でも笑いながらそういってくれた。

そう、だ…そもそも竜吾にお前は一人じゃないって叫んだのって誰なの?あたしじゃない!


「カヤ、離れていても俺達は同じグラウンドに立ってるんだ!

みんな見えなくても、絶対にここにいる!だから安心してくれよ!

お前は一人じゃない!こんなにたくさん、仲間がいるじゃないか!」


足の震えが、止まった。


もう大丈夫だと、そんな気がした。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ