イナイレ長編
□6 これがイナズマ落としだ!中
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来る試合当日――
野生中は、まるでジャングルみたいなところに突如現れた。
しかも鶏とかゴリラみたいな選手ばっかで、車のことも初めて見るとか何だとか…いやマジなんなのこの野生児達。
さすが野生中…。
あれ、そういえば野生中の応援団に紛れてあそこにるちびっ子たち…
「壁山…あれあんたの弟たちじゃない?」
「にいちゃーん!応援に来たよー!あれが俺の兄ちゃんだ!あの帝国に勝った!」
「お前の兄ちゃんすげぇんだなー!」
「おお!にいちゃん頑張れー!」
あーあ、壁山ってば顔真っ青。
「お、おおお俺、トイレいってくるっす」
「ちょ、もうすぐ試合が始まるんだって!」
どうすんだ、こんな調子で…
「とりあえず、みんな準備して。
足つったり怪我しないようにもうちょっとストレッチしてね」
「おおー!」
みんなの体調は、朝バスの中(こんな弱小チームのためにバスが出せたのはきっと夏未のおかげだとおもう)で確認したから大丈夫そうだけど、やっぱり壁山のことが心配だ。
「ねぇ壁山」
「なななっ、なんスか!?」
「あのね、あたしあの子達があんたのこと応援する気持ち、すっごいわかるよ」
「さく…」
壁山はそっと視線を、自分の弟に向けた。
「あたしにも兄ちゃんがいてね、サッカー選手だったの。
いつもそんな兄ちゃんが自慢で、憧れてた。
もちろん負けることだってあったけど、あたし最後まで諦めないで走る兄ちゃんが大好きだったの。
だから壁山もあの子達のために…最後まで諦めないで、ね?」
「は…はいッス…」
<いよいよ、フットボールフロンティア地区予選第一回戦、雷門中学対野生中学の試合がはじまります!>
そろそろおなじみになってきた角間の実況とともに、ホイッスルが吹かれた。
とうとうフットボールフロンティアが始まったのだと思うと胸がどきどきしちゃう。
負ければ後がない。この試合、絶対におとせないんだ!
あたしは土門君、眼金、マネージャー陣とともにベンチに座って観戦だ。
もちろん、あたしもいざとなったら出るつもりではあるけれど。
キックオフとともにさっそく豪炎寺にボールが回された。
あたしは立ち上がって野生中の動きに目をこらした。
するとあの鶏みたいな選手がばーっとはしってきて、さして身長も高くないのにすごい脚力でファイアートルネードを防いでいきやがった。
本当に豪炎寺や土門君の言うとおり、高さは帝国にも勝る!
そして鶏からのパスを受け取ったチーターみたいなヤツがこれまたすごい高速のドリブルであがっていった。
ありゃあ、おいつけないぞ…!
「コンドルダーイブ!」
なんだあいつ、あの高い位置からヘッドヘディング!?
しかも横にはあのゴリラが迫っている。
そのヘディングはまだシュートじゃない!
「守そっちじゃない!」
「ターザンキーック!」
「させるか!熱血パンチ!」
なんとかボールは防がれたけれど…ここまでの流れで全く歯が立たなかった。
「あんなに特訓したのに…ここまでの差があるなんて…」
「風丸しっかり!むこうは野生児なんだ!
小さい頃からジャングルで遊び回っていた奴らの足に、短期間での特訓が簡単に通用するとは思うな!気合いだ気合い!」
「カヤの言うとおりだ!めげずに行くぞ!ドラゴンクラーッシュ!」
そう!そのいき!ゴールしなくてもシュートで終わることは流れに乗るいいきっかけだ。
なのに…むこうの巨体がすごい勢いでまわってきてシュートを打とうとした竜吾をはね飛ばした。
「竜吾!」
「染岡!」
いまの反則じゃね!?
てか…竜吾、動けない…?
さっきシュートするときに飛ばされたから、足を捻っているかもしれない…。
「審判ストップ!」
あたしは審判に叫んでから竜吾のもとへ走った。やっぱり思った通り、竜吾は利き足を押さえてうずくまっていた。
「竜吾!」
「くっそ…利き足をやられちまったぜ…」
「肩貸すから、ベンチ行くよ!土門君出る準備して!」
足首を捻っていては、試合は無理だ…
「くっそ」
「落ち着いて竜吾。今日勝つんでしょ?
そう信じてるなら無理しないで。次の試合で竜吾がいないのはきついもん」
「でもよ…」
「大丈夫。土門君がDF入って、壁山をFWにあげるから」
<ここで雷門中は負傷した染岡に替わり土門が入り、なんと壁山がFWの位置に上がりました!
はたしてどのように野生中を攻略するのでしょうか!>
スローインで試合再開。
悔しそうにフィールドを睨む竜吾の足に氷を当てながら、あたしはそれをみまもる。
と、さっそくゴール前までドリブルされてしまった。
まずいな人が足りていない。
「土門君しっかり!」
「っへへ、いっちょやりますかね…」
なんだ?土門君妙に余裕そう…。
そして次の瞬間あたしは目を疑った。
土門君がスライディングを仕掛けたのだが、それはただのスライディングじゃあなかったのだ。
「キラースライド!」
あれはたしか…帝国の…?
「お手並み…拝見!」
そして土門君がボールを高く上げた。
なんで土門君が帝国のDF技を使えるのか不明だけど、とりあえず助かった!
鶏男も豪炎寺と壁山に続いてとびあがる。
あの高さなら二段ジャンプで…。
「ひぃい!」
「壁山…あ、あきらめんなまだ一回目だろ!根性みせやがれー!」
どんなに叫んでも、あたしは今、フィールドに立っているわけじゃあない。
ここで叫んでも…説得力無いよね。
でも、今できることはこうして叫ぶことと、氷持つことだけで。
もどかしい気持ちの中、前半が終わった。
「守、手…」
「やったなぁ!みんな!あんなすごいチームと同点だなんて!」
「なにいってんだ、コテンパンじゃねぇか」
「手だってあんた、真っ赤じゃないの。ほら氷」
「でも、後半も俺は絶対にゴールを割らせない!」
「…俺…」
壁山?
「ダメなら、交代させてください」
「お前…」
「紺野さんなら、もっとうまくやれるッス。
俺には無理ッス。これ以上…ボールをあげてもらたって…」
「やだ」
「カヤ…」
「やだね。だってここで交代なんかしたら「壁山は使えない」っていってるようなもんじゃん。
そんなことしないから」
「そうだ!俺は、お前と豪炎寺にボールを出し続ける!怖いって言いながら、お前あんなに努力してたじゃないか!
精一杯やった努力は、無駄にはならないよ!
きっと実を結ぶさ!だから、何度でもお前のところにボールをあげ続ける!
いいな!」